日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: B15
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林政 I
西ジャワ州における国有林内開墾の現状
*志賀 薫Budi .森 あい子齋藤 達也御田 成顕増田 美砂
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抄録
1. 背景及び目的インドネシアにおいてアジア経済危機はそれまでの都市と農村との関係にも影響を与えることになった。すなわち,それまでは成長し続ける工業セクターや都市インフォーマルセクターに吸収されていた農村部の過剰人口が,再び農村へと還流し,すでに飽和状態にあったジャワ島の農村部にあってさらなる農地不足を引き起こした。その矛先は国有林へと向かい,各地で国有林の占拠,開墾が生じた。本研究は,ジャワ島第2の都市バンドンを擁し,その周辺にアパレル産業をはじめとする工業地帯を発達させているバンドン県を事例に選び,国有林内開墾がどのような社会的背景の下に行われ,森林に対してどのような結果を生みだしているのかを明らかにすることを目的として,1999年に開始されたものである。今回の報告では,2002年7月から8月にかけて行った追跡調査の結果を加え,経済危機後の4年間の変化について考察する。2. 調査方法調査値である西ジャワ州バンドン県ロンガ郡C村は,バンドン市から南西約60km,標高約1000mの山間部に位置している。人口5,821人(2001),面積5.76km2,人口密度1010人/ km2であり,農業のみで人口を扶養することはできない条件にある。 C村は3つのDusun(地区)からなり,各Dusunの下には3から5のRW(区)がおかれ,各RWはさらに2から4のRT(班)に分けられている。1999年には,国有林に近いRW12(2001年現在149世帯)を母集団とし,給与生活者を除いた上,主たる職業をもとに分けたクラスターから,計50世帯(内49世帯が有効)を無作為抽出し,調査票を用いた聞き取り調査を行った。今回はその調査と同一世帯を対象として追跡調査を行い,4年間の比較を行った。3. 結 果国有林内開墾については,経済危機直後の1999年には33世帯が国有林内開墾に従事していたのに対し,今回の調査では21世帯に減少していた。約1/3の12世帯が国有林内開墾から離れ,また国有林内開墾地面積の合計は,多少ではあるが減少したことが分かった。1999年以降,新たに国有林を開墾した世帯は8世帯,開墾された土地面積は182アール,うち水田アール,畑地166アールであり,放棄した世帯は21世帯,土地面積は272.6(a)(水田2(a),畑地270.6(a))であった。さらに,かつての開墾地約50%が放棄されていることが分かった。聞き取り調査によると,それらの土地はその大部分が何も手を加えられずに放棄されているが,中には果樹などを植林された土地もあるとのことであった。しかしながら,この放棄後の開墾地の現状は自己申告によるものであり,信頼性は薄いと考えられたので,今後は現場とつき合わせたチェックが必要である。また,C村の調査対象世帯の人口については,1999年から2002年にかけて顕著な変化は見られず,2001年調査時以降村外へ転出した世帯は見られなかった。4. 考察1999~2002年にかけて,国有林内開墾に従事する世帯数は減少したが,これは農地不足が解消されたことを示しているものではなく,粗雑な農地経営を反映したものであると考えられる。開墾地放棄の理由から,当初,収益が上がると見込んで開墾を開始したのにも関わらず,労働力,資金の欠如のため,適切な管理をすることができず,農地の生産性を招き,十分な収益が得られなくなったという,計画性の欠如した土地経営が行われていたことが窺える。このことは,同じ国有林内開墾地でも,持続的経営がより可能な水田では開墾地の約5%が放棄されたのに対し,収奪的な経営に陥り易い畑地では,約54%という,水田に比べはるかに大きな割合の開墾地が放棄されたことからも推察できる。また,継続して国有林の開墾を行っている世帯のなかには,古い開墾地を放棄し,新たな土地を開墾する,という世帯も見られたことから,生産性の低下した耕作放棄地・新たな開墾地,双方の増加により,国有林の減少,国有林地の土壌の質の劣化は着実に進行していると考えられる。さらに,前回の調査時には見られなかった用水路(インドネシア政府による)が国有林地を経てC村へ届いたことも,その流れに拍車をかけているのではないかと考えられる。また,1999~2002年の間の,C村の調査対象世帯における人口の変化に顕著な変化はない。しかし,調査で得られた回答によると,バンドン市とC村を結ぶエリアで短期的に労働しているというケースが多く見られ,C村がバンドン市という大都市のインフォーマルセクターの供給源となっていることが窺えることからC村の人口は浮動的であるといえる。このような人口の動向には,高人口圧と農地の不足のため,農業による自立が不可能であるという事情が存在する。この事情がこれからも,国有林地の劣化の原動力となる事は明らかであろう。
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© 2003 日本林学会
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