日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: P1037
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経営I
ロボットカメラの定点映像で捉えたイヌブナーブナ林の樹木フェノロジー
*藤原 章雄
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抄録
I.はじめに 本研究では,既報のロボットカメラシステムによって取得したブナ天然林樹冠部の定点長期連日映像を用いて,開芽,堅果の落下について映像から観察できる情報を分析し,定点長期連日映像のフェノロジー観察への応用可能性について検討した結果について報告する。II.材料と方法 東京大学秩父演習林内の山地帯天然林長期生態系プロットの観測鉄塔上部に設置して自動運転による連続運用試験を行っている天然林樹冠部ロボットカメラシステムによって得られた映像記録を分析対象として用いた。本研究では,ロボットカメラシステムによる定点長期連日映像のフェノロジー観察への応用可能性を探るため,得られた映像データの中から,ブナのシュートの変化が観察でき,凶作年と豊作年の両方が観察できるショット7の1997年2000年の映像を分析に用いることとした。観察は,ビデオテープから観察する日付のショット7が記録されている部分のうち約2秒間についてノンリニア編集ソフトを用いてパソコンに取り込み,ショット7のみの連日映像を作成し,それを再度ビデオテープに出力したものをVTRと一般のテレビモニタによって適宜再生し観察する方法と,取り込んだ映像から毎日の静止画像を作成しパソコンモニタもしくは印刷したものを観察する方法の2つの方法で行った。III.結果と考察1.開芽 開芽期の連日映像を観察し以下の結果を得た。1997年では5月3日から7日の5日間で開芽度は0.5,1,2へと急激に移行していることが分かった。2000年では,画面に映っている芽はほとんどが葉と花を同一芽内に含む混芽であり,雄花の下垂などが観察できた。このように,4,5日で急激に進行し数日間隔観測では見逃してしまう開芽の現象を観察し記録するには,連日映像が有効であった。また,葉芽と異なり混芽は雄花の下垂など細かな変化があるが,静止画観察では判別しづらい。しかし,動画観察では立体感と動きの情報が加わるため風に揺れる雄花が葉の部分と判別しやすく同じ解像度であれば静止画観察より動画観察の方がより細かな観察が可能であると考えられた。2.堅果の落下 映像を詳細に観察することで殻斗がまだ割れていない状態(未割),殻斗が割れて堅果が露出している状態(堅果露出),堅果が脱落して殻斗のみになった状態(堅果脱落)を判別することができる。図は豊作年であった2000年の10月2日から11月22日の静止画観察から画像上で状態を判別できる殻斗の数を「未割」,「堅果露出」,「堅果脱落」に分けて示したものである。風により枝が動くこと,雨の重さによって枝が下方に曲がること,落葉によって枝が軽くなり上方にあがること,落葉により葉で隠れていた殻斗が新たに見えるようになること等により,毎日の映像で見える殻斗は同一のものではないが,樹冠を母集団として一定のカメラ画角によってサンプリングした観測データであるとみなして上記のような集計を行った。堅果の落下は10月3日から11月1日にかけて起こっており,「未割」と「堅果露出」の状態にある殻斗の減少傾向を見ると,10月15日前後でその傾きの大きさが最大すなわち日堅果落下数の極大となっている。堅花の落下が終わったと考えられる11月4日以降殻斗の数は減少しないで推移しており,全体の2割程度の殻斗が堅果落下後も枝に着いたまま残っている様子も確認できる。IV.まとめ 天然林樹冠部ロボットカメラシステムで得られた長期定点連日映像によって従来は困難であった樹冠部の連日観察が可能となり,一般的な樹木のフェノロジー観測項目である開芽観察を1日単位で行うことができた。静止画観測では判別が困難な部分も動画観察を行うことで立体感,動きの情報が加わりより詳しい観測が可能であった。さらに,これまでフェノロジー観測としては困難であった観測項目(堅果の露出,落下)についても直接観察できるという特性が有効であることもわかった。
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© 2003 日本林学会
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