日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: P1099
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生態I
鳥海ムラスギ天然林台風攪乱後の植生動態
*和田 覚澤田 智志白沢 芳一佐藤 みほこ
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キーワード: 台風, 更新, 天然林
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抄録
1.目的<BR> 鳥海ムラスギ天然林は、鳥海山の西麓、秋田県矢島町城内の木境鳥海国有林内にあるスギ群落である。標高680m付近の豪雪環境に成立し、林相が極めて特異なこと等から、秋田県指定天然記念物等に指定されている。しかし、1991年の台風19号により、その核心部は壊滅的な被害を受け、上層木のほとんどが倒伏した。こうした台風は、自然災害としての側面だけでなく、自然攪乱として、森林群落の維持や更新に重要な役割を果たしているものと考えられることから、その動態を調査した。<BR>2.調査地と調査方法<BR> 台風発生から6年後の1997年秋に、被害地内に190mと120mの十字のラインを設け、それぞれ10m置きに2m×2mの調査コドラートを計33箇所設けた。台風以前に林冠を形成していた上層木はブナ、スギ等haあたり僅か15本しか残っていない。鳥海ムラスギ群落周辺の地域は、火山山麓地内の微凹地から平坦地で、湿性な立地にあり、土地分類基本調査によればグライ台地土壌、ムラ杉系統に分類されているが、林木による雨水の遮断や吸水がなくなったため、より湿性な環境に変化した感がある。台風被害木は重機によって搬出されており、それに伴う人為的な攪乱も無視できない。調査は各コドラート毎に被度・群度による植生調査を実施し、スギと高木・亜高木性の広葉樹(以下、広葉樹)については全て樹高測定を行った。調査は調査区設定時の97年、98年、00年、01年、02年の5回行った。3.結果と考察<BR>(1)植生動態<BR> 台風被害から6年後の97年の調査では、階層構造の発達は貧弱で、カサスゲ等のカヤツリグサ科の植物が優占し、林床にはツタウルシ等の蔓植物も多かった。それからさらに5年後の02年の調査では、植生高は2.0mほどとなり、相観的にはススキ草原化している。被害後およそ10年の期間をトータルで見ると、多年生草本が、台風による急激な疎開によって優占している。<BR>(2)スギ・広葉樹の発生状況<BR> 調査コドラート内では、スギの他、広葉樹はおよそ20種見られた。97年にはスギがhaあたり11,969本、広葉樹が11,515本の合計23,483本の発生が見られ、スギと広葉樹の本数構成は半々であった。02年にはスギは半減し5,303本、広葉樹はやや増加して13,710本の合計19,013本となり、全体として減少傾向にあり、広葉樹はハウチワカエデ、アオダモ、ブナ、ヤマモミジの順で多かった。樹種別の出現率(全コドラート数に対する出現コドラートの率)は、スギが最も高く、ついでブナで、かつて優占していた樹種が実生バンクとして被害区域内に広く分布している様子がうかがえた。コドラート内の林床基質として、伐根・倒木がおよそ1割、水面もおよそ1割の面積で存在したが、ここでのスギ・広葉樹の発生は今のところ見られない。また2つのコドラートは、被害木処理に伴う重機が走った跡の上に位置しており、植生は少ないが、スギの発生は多い傾向にあった。スギについては、伏条や立条といった栄養更新による個体は見られず、全て実生由来の個体であった。<BR>(3)スギ・広葉樹のサイズ<BR> 97年のスギの樹高は平均10cmで、そのうち30cm以上の充実した個体は13%であった。02年になると平均42cmとなり、30cm以上の個体は43%を占めるようになった。スギはこの5年間で個体数を半減させており、台風発生後に大量に発芽させた実生の淘汰が、この10年間で急激に行われたものと推察された。ムラスギの更新には、台風攪乱から多年生草本が優占するまでの植生の少ない期間が重要で、実生定着の不確実性を量でカバーしているものと見られた。 対照的に広葉樹については、萌芽を除き、97年から02年にかけての本数の急激な変化は見られず、02年の平均樹高はブナ57cm、ハウチワカエデ136cm、ヤマモミジ44cm、アオダモ110cmであった。
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© 2003 日本林学会
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