抄録
本報告の目的は、2002年度に導入された直接支払い制度である森林整備地域活動支援交付金制度(以下、「森林交付金制度」と略)の枠組みと展開形態に関して考察することである。同制度導入は、いうまでもなく森林の多面的機能の持続的な発揮を掲げた新森林・林業基本法の制定後、それを具現化するための初めての制度として位置づけられる。特に、森林施業計画を実質化することが強く意識された制度設計となっており、市町村長との協定締結が条件とされている。基本法改正後のゾーニング作業期間の短さに加えて、本交付金制度も十分な説明や議論の期間が十分に保障されないままの導入であり、県段階や市町村段階でも多くの不満が聞かれる。制度導入の第1の問題点はその拙速さにあるが、同時に、枠組みや展開形態について検討し、予想される問題点を整理しておくことが現段階で求められる。 2000年に導入された農業における「中山間直接支払い」との違いを見ることによって、「森林交付金制度」の特徴点をみると、次の3点が指摘できる。 第1は、「中山間直接支払い」では傾斜などの条件不利性が基準とされるが、「森林交付金制度」では森林の齢級構成や機能別ゾーニングによって交付金額が決定されることである。第2は、団地(30ha以上)や地域の捉え方、交付対象者が「中山間直接支払い」に比べて多様であることである。農業ではほとんどが集落協定であり、農業集落を中心とした団地となっている。団地設定は大きくても旧村単位である。一方、「森林交付金制度」では、先の森林法改正によって森林所有者以外でも施業計画を作成することができるようになったのを受け、更にその代表者が協定を結ぶことも可能である。森林組合や個別林家、林家集団、民間業者等が施業計画策定者になれる。更に、団地設定は30ha以上という下限が決められているだけであり、集落レベルや個別林家保有レベルから1市町村に1団地を設定することも可能である。第3は、交付金額は積算基礎森林面積に応じて決定されるため(積算面積当たり1万円)、同じ協定面積であっても交付金額が異なることである。このことは、実施すべき作業費用の過不足を発生すると同時に、集団的な取組の困難さをもたらしている。 福岡、大分、宮崎の3県において交付金制度の実施状況の調査を実施した。団地設定の方法及び交付対象者(協定者となる施業計画作成者又はその代理)に関して市町村に対する指導方針が異なることが明らかとなった。 2002年度の交付金予算額は約200億円(半分が国、あとを都道府県と市町村で折半)であり、積算基礎森林面積では約200万ha分が予算化されている。これは35年生以下の民有人工林面積433万haの46__%__にあたる。しかし、全国一様に基礎面積に応じてとりくまれているわけではなく、都道府県によって取組方に大きな温度差があると言われている。 同制度の初年度が終了した段階で、県別の協定面積率やその協定方法を比較分析し、各県あるいは各町村の実態分析を積み上げることが、制度をより実行あるものにするために、また制度自身の見直しのために不可欠である。しかし、基礎となるデータが未公表のままである。今後、そうしたデータの開示を求め、県別あるいは市町村別の比較研究や実態研究を行うことが必要である。