日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: D08
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T11 キクイムシと菌類をめぐる諸問題:全体像を理解するために
北海道中央部におけるヤツバキクイムシの年2化繁殖
*井口 和信
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抄録
北海道富良野市の東京大学北海道演習林において、森林施業直後の天然林において餌木丸太を用いた繁殖調査と天然林に発生した小規模な風害による風倒木の存在する機会を活用した繁殖調査の比較から、寄生密度の違いによる餌条件の変化がヤツバキクイムシの繁殖や生活史にどのような影響を与えているかを検討した。1998年に行った「施業後」調査での第1世代幼虫の生育期間は8__から__9週間ほどであった。平均母孔密度は餌木丸太で709/__m2__、風倒木で462/__m2__であり、平均繁殖率(新成虫数/{交尾室数+母孔数})は餌木丸太が0.4で風倒木が1.5であった。この年は年1化であった。1999年に行った「風害後」調査での第1世代幼虫の生育期間は7週間ほどであった。風倒木での平均母孔密度は133/__m2__、平均繁殖率は15.1であり、餌木丸太での平均母孔密度は279/__m2__、平均繁殖率は10.2であった。この年は年2化の繁殖が確認されたが、新成虫のうち繁殖部より脱出したのは、約半数の個体で残りの半数は9月末でも繁殖部に残っており、そのままの状態で越冬した。年2化が確認されなかった「施業後」の繁殖状況は、母孔密度はかなり高く繁殖率も低かった。年2化が確認された「風害後」の第1世代繁殖における平均母孔密度は、風害翌年としてはかなり高かったといえる。「風害後」の第1世代幼虫の生育完了は過去の例とほぼ同様であり、それに加えて約半数の新成虫は8月の気温が十分に高いにも関わらず、2世代目の繁殖をせずに越冬を迎えた。これは第1世代幼虫の餌となったエゾマツ風倒木の発生量が小規模であり、寄生密度が高く餌条件があまり好条件でなかったためと考えられる。これらのことは、ヤツバキクイムシの繁殖が年2化となるには、気象条件だけでなく寄生密度が関係するという考えを支持するものである。ヤツバキクイムシによる虫害を防除するうえで、年2化の繁殖がどのような環境下で起こるかは重要な問題であり、さらに検討が必要である。
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© 2003 日本林学会
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