日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: A22
会議情報

T2 従来の育種技術とバイオテクノロジー等新技術との統合による新たな林木育種の展開
イオンビームと組織培養を組み合わせた樹木育種の可能性
*石井  克明細井 佳久長谷 純宏田中 淳
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 これまで突然変異育種では、変異原としてγ線が主に用いられてきたが、最近日本独自の技術としてイオンビームを照射した有用品種の育成が行われるようになっていきた。イオンビームは高い生物効果を示すため、花卉ではこれまでにない新しい突然変異が報告され、2002年には初の実用品種が作出された。ここでは、ヒノキの苗条原基やスギの組織培養した芽に重イオンビームを照射した場合の致死量、生存率や形質変異について報告する。 材料は森林総合研究において組織培養を行っている、ヒノキの苗条原基及びスギの培養した芽を用いた。重イオンビームの照射は原研高崎TIARAで加速粒子4He2+(50 MeV)及び 12C5+(220MeV)及び12C6+(320MeV)を深度制御種子照射装置でそれぞれ5_から_266 グレイ(Gy)、5_から_160 Gy、1_から_20Gyの線量になるように行い、その後培養を続けて致死線量や変異体の出現を観察した。 苗条原基塊の大きさが実験に影響するが、苗条原基塊を直径2mm以下に小さくした場合の12C5+ イオンの照射では致死線量が約80 Gyであることがわかった。また、4He2+ イオン照射の実験で苗条原基が直径3mmより大きかった場合、生存した苗条より白子、黄子、ワックスリッチと認められる葉条変異体が得られた。変異体の出現頻度やその種類と照射線量との間には明確な関連は見られず、低線量においても変異体が観察された。照射有効深度の影響により、苗条原基塊が約3mm以上の時は致死線量の境界値が明確に判らなかったが、80 Gy以上では、苗条原基表面が枯死し、その後内部で生存していた細胞が増殖してくるため、そのようになるのではと推測された。スギの培養した芽にイオンビームを照射した場合の生存率は線量が増加するにつれて、減少した。シロイヌナズナを用いたモデル試験では、イオンビームで誘発される突然変異の半分が点突然変異などの小さな変異であり、あとの半分が遺伝子全体を含むような大きな欠失や逆位であるという1)。また、花卉での照射結果では、バーベナで不稔性付与による花持ちの良い変異体(不稔花コーラルピンク、不稔花手毬サクラ)や、ペチュニアとカーネーションで花弁の色素変異である複色体(新花色サフィニアローズベイン、ビタルイオンシリーズ)が得られている。今回のヒノキで得られた色素変異は単色的であったが、高頻度で生じた理由は、照射対象が苗条原基であり、活発な分裂組織を多く含んでいたことがひとつの理由として考えられる。また、ワックスリッチの変異体は、林業的にはあまり意味が無いと思われるが、色素変異では難しかったシュートからの発根による個体の再生が可能であったので、植木園芸的な発展が期待される。 スギの実験では、現在までのところ明確な色素変異や形態変異は観察されていないが、再生植物体の中には、イオンビームの照射の影響を受けたものが存在する可能性があり、今後紫外線耐性や雄性不稔個体等の変異体が生じているかどうかの検定を予定している。 今後、活性の高い組織培養組織に重イオンビームを照射することによって、樹木についての新しい変異体の作出が大いに期待されると思われる。

著者関連情報
© 2004 日本林学会
前の記事 次の記事
feedback
Top