抄録
2.材料と方法 - 植物材料は韓国の森林に一般的なカラマツ(Larix kaempferi),アカマツ(Pinus densiflora)とチヨウセンゴヨウマツ(Pinus koraiensis)を用いた。北大札幌研究林の温室で育てた3樹種のメバエは外生菌根菌(コツブダケ_-_Pisolithus tinctorius)に感染させ,森林総研北海道支所の環境調節実験棟に設けられたCO2濃度を720ppmと360ppmに制御した自然光型環境調節室(昼/夜室温=26/16 ℃,各3室,計6室)で冬芽が形成された18週間生育させた。光合成速度と葉内CO2濃度との関係(A-Ci曲線)と気孔コンダクタンスの測定には開放系の同化箱法(LI-6400,Li-Cor, USA)を用い,飽和光(1500μmol·m-2&middo t;s-1)で測定した。気孔制限(stomatal limi tation;ls)は,ls=(A_-_Ai)/A x100(%)で算出した(A=葉内CO2濃度が360ppm時の光合成速度,Ai=外気CO2濃度が360ppm時の光合成速度)。測定終了後,メバエを地際から切断し,プレッシャーチャンバーを用いて木部圧ポテンシャルを測定した。その後、直径と乾重量(65℃,48時間以上)を測定し,湿式灰化後にプラズマ発光分析装置ICP(Jarrel Ash, USA)を行いて養分分析を行った。3.結果 - 外生菌根菌と高CO2処理がチョウセンゴヨウマツとカラマツの乾重量と直径に受ける有意な影響は見られなかった。しかし,アカマツでは外生菌根菌に感染したメバエで有意に良い成長が見られた。特に360ppm処理区で大きな差が見られた。光合成の測定結果は、360ppm処理区のチョウセンゴヨウマツは外生菌根菌感染個体の初期勾配は小さく,カルボキシレーション効率は低かったが,RuBP再生産速度は高い値を示した。ところが720ppm処理区の外生菌根菌に感染したチョウセンゴヨウマツとカラマツのメバエは,初期勾配とCO2飽和域の純光合成速度(RuBP再生産速度)が高い値を示した。アカマツでは両処理区ともに外生菌根菌に感染したメバエの初期勾配は2_から_3倍くらい高くなって,CO2飽和域の純光合成速度も2倍以上高かった。 また,気孔制限はアカマツではCO2濃度にかかわらず,感染個体で小さな値を示した(特に720ppm処理区で有意に低下)。ほかの2樹種では有意な傾向は見られなかった。木部圧ポテンシャルは3樹種共に有意な差は無かった。針葉中のリン含有量は,チョウセンゴヨウマツの860 ppm処理区とアカマツの360ppm処理区及び720 ppm処理区において外生菌根菌に感染したメバエで高かった(P<0.01)。しかし,カラマツでは有意差は無かった。3樹種では,大気CO2処理区に比べると,高CO2環境区で外生菌根菌の感染率が有意に高かった。4.考察 - 高CO2濃度下では,宿主樹木メバエの光合成能力が上昇し,これに伴って光合成産物の根系への転流が増加し,これを利用することで外生菌根菌の活動能力も上がって,高CO2環境下で外生菌根菌の感染率が増加したと考えられる。このように外生菌根菌の感染によって土壌中のリンや水の吸収を助ける働きによって,外生菌根菌に感染したチョウセンゴヨウマツとアカマツの針葉中のリン含有量の増加傾向が見られた(ns)。高CO2環境下で外生菌根菌に感染したチョウセンゴヨウマツメバエの針葉中のリン濃度の増加は,同様に無機リン濃度の増加ももたらし,RuBP再生産速度を増加させてCO2飽和域での光合成速度の増加をもたらしたと考えられる。さらに,A-Ci曲線でカルボキシレーション(炭素固定)効率を示す初期勾配とCO2飽和域での光合成速度の増加が見られた。また,外生菌根菌に感染したアカマツメバエは Rubiscoの活性や針葉中のリン含有量(即ち葉緑体中の無機リン)の増加で,光合成産物の転流やRuBP再生産速度が増加する傾向があった。その結果,アカマツの両処理区(360ppmと720ppm)とチョウセンゴヨウマツの720ppm処理区の乾重量及び3樹種メバエの直径の増加をたらしたと考えられる。特にアカマツでは明確な反応を示した事から,3樹種の中ではアカマツが外生菌根菌のコツブタケとの共生関係が密接だと思われる。