日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: C01
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生態 I
ニセアカシア林内におけるクロマツ実生の天然更新について
クロマツ実生の菌根と生存率の評価
*谷口 武士玉井 重信山中 典和二井 一禎
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抄録

 ニセアカシア林内におけるクロマツ実生の天然更新について -- 実生の菌根と生存率の評価 -- 谷口武士(京大院農)、玉井重信・山中典和(鳥大乾燥地研)、二井一禎(京大院農)     背景と目的:鳥取砂丘の一部に設定した本研究の調査地では、砂防のため1950年と1964年の2回にわたりクロマツ(Pinus thunbergii) とその肥料木のニセアカシア(Robinia pseudoacacia)が混植された。近年このクロマツ林もマツ材線虫病のために衰退し、クロマツよりもニセアカシアが優占するようになり風致景観の点で問題視されている。 ニセアカシアは窒素固定により土壌を肥沃化させ、他の植物に対する生長阻害物質を生産するという特性を持つことが知られている。この様な土壌特性の変化はクロマツの更新を阻害すると予測されるが、そのような現象の詳細は知られていない。そこで、本研究では、ニセアカシアがクロマツの更新に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 調査方法:1. クロマツ実生の更新の調査:2003年5月下旬、クロマツ林とニセアカシア林の境界に20 × 10 mのプロットを2つ(plot1,plot2)設置した。両プロットともクロマツの優占度に応じて下記のような5 × 10 mの4つのサブプロットに区分した:クロマツ純林(P)、クロマツが優占するニセアカシアとの混交林(P-R)、P-Rよりニセアカシアの密度が高いクロマツとの混交林(R-P)、ニセアカシア優占林(R)。それぞれのサブプロット内で当年生と1年生以上のクロマツ実生の発生位置と生存状況を2003年5月から11月まで約2週間おきに調査した。 実験的に当年生クロマツ実生の生存率を調べるため、2003年5月下旬、各プロットのPとRの隣接地と、プロット近くのニセアカシア純林(2箇所)に、実験室で育成した1ヶ月生クロマツ実生を50本ずつ移植した。そして同年11月まで約2週間おきに生存状況を調査した。 このプロット内におけるクロマツ優占林とニセアカシア優占林の環境条件の違いを調べるため、林床の天空率、炭素濃度、窒素濃度、土壌含水率を調べた。2. 根系への影響の調査:2003年11月下旬、ニセアカシア林とクロマツ林で当年生クロマツ実生を6本ずつ、1年生以上の実生を3本ずつ掘り取り、葉、幹、根の乾燥重量、菌根化率、優占する菌根タイプを調べた。3. ニセアカシア林内の土壌が実生に与える影響の調査:クロマツ純林とニセアカシア優占林から採取した土壌に1ヶ月生クロマツ実生を50本ずつ植えて温室で育成し、実生の葉の褐変と枯死状況を調査した。 結果:1.光環境を林床の天空率で比較したところ、両 plot において、6月中旬はRの方がPよりも低く、逆に11月下旬はRの方が高かった。12月上旬、土壌含水率を調査した結果、表層ではPよりもRで高い傾向にあった。炭素濃度、窒素濃度はともにPよりもRで高かった。 plot1とplot2において、8月までに発生した当年生実生の生存率は11月下旬にはそれぞれ、Pでは51.6%と43.5%、P-Rでは42.9%と37.1%、R-Pでは29.9%と16.7%、Rでは19.4%と10.5%となりクロマツ純林での生存率が高かった。一方、1年生以上の実生の生存率は67-100%と当年生の実生と比べて非常に高かった。実験的に各プロットのPの隣接地に移植した実生の生存率はそれぞれ、68%と62%で、Rの隣接地では 8%と 2%であった。さらに、ニセアカシア純林では10%と0%であった。2.クロマツ林内とニセアカシア林内の当年生クロマツ実生の菌根化率はそれぞれ、95.2 ± 2.8%と39.8 ± 22.2%であった。クロマツ林では黒い髪の毛状の菌糸を持つ菌根タイプが優占していたが、ニセアカシア林ではこのタイプは少なく、優占する菌根タイプも異なっていた。一方、それぞれの林分における1年生以上のクロマツ実生の菌根化率は、87.7-97.5%と83.6-94.9%で、クロマツ林では上記の黒色菌根タイプと菌鞘が白色の菌根タイプが多く、ニセアカシア林では菌鞘が茶色の菌根タイプが多かった。3.4ヵ月後、クロマツ純林から採取した土壌に移植したクロマツ実生の生存率は100%であったが、ニセアカシア優占林から採取した土壌で育てた実生の生存率は84%で、16%は葉が褐変して枯死した。 考察:野外調査から、ニセアカシアが優占する林分では当年生クロマツ実生の菌根化率が低く、生存率も低かった。このことから、ニセアカシアに由来する何らかの因子がクロマツの定着を阻害している可能性が示唆された。今後、ニセアカシア林におけるクロマツ更新の阻害因子を明らかにしていきたい。

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