日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: F14
会議情報

T10 熱帯林の再生―森林再生における事業と研究の協働の在り方―
地域住民による林内薬用植物の利用
ボゴール農科大学グヌンワラット演習林の事例
*ダマヤンティ エリン カタリナ増田 美砂プラスティヨ リリック ブディズフッド エルビザル
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抄録

はじめに
ボゴール農科大学グヌンワラット演習林は,西ジャワ州スカブミ県にある面積359ヘクタールの人工林である.しかし経済危機ののち演習林の約100ヘクタールは住民によって開墾されてしまったため,2000年に演習林管理事務所は開墾された場所をアグロフォレストリーエリアに転換し,地域住民も参加できるプログラムを開始した.
一方,2001年のボゴール農科大学の独法化とともに,グヌンワラット演習林も資源を利用し自ら資金獲得を行わなくてはならなくなった.そこで本研究は,グヌンワラット演習林の資源を運営プログラムに活用することを目的として,林内に分布する薬用植物のインヴェントリー作成と地域住民による植物利用についての情報収集を行った.
方法
2002年5月_から_7月にかけて,林床植生分析および地域住民をはじめとするステイクホルダーを対象とした聞き取り調査を実施し,それらの情報をGISで処理した.
結果
薬用植物の潜在的可能性
スタディープロットにおいて46科85種の林床植生が観察され,そのうち60種が薬用植物であることがわかった.特に110.5ヘクタールという広大な面積に植林されているマツの林床において,最も多くの薬用植物種が見出された.
薬用植物の利用
地域住民に対する聞き取り調査によると,177種の植物に対し,103種類の利用が認められ,うち73種は病気の薬としてかつて利用されていた.
利用部位については,植物体の17の部位が用いられていた.最も頻度の高かったものは葉の部分であり,次いで茎や果実等が利用されている.薬用植物の形態については,草本40.7パーセント,高木25.4パーセント,低木14.1パーセントで,残りはよじ登り植物やつる植物,竹,茸,シダ類であった.
これまで利用が確認された177種の植物のうち, 3種類,トゥプスAchasma megalocheilos,パチンCostus speciosusとラネSelaginella plana しか採取していなかった.
考察
グヌンワラット演習林には薬用植物が存在するポテンシャルがあるが,本研究においては60種しか観察されなかった.これは,サンプリングエリアが狭かったこと,スタディープロットが少なかったこと(グヌンワラット演習林の後部地を除いた345.5ヘクタールの0.3パーセントに相当する11区の立木においてしかフォレストインベントリーを行わなかった.)が影響していると考えられる.サンプリングされなかった場所で他の薬用植物を見つけられる可能性は大きい.
以上をまとめると,地域住民が現在使用している177種の薬用植物のうち,24種類が演習林内に見つけられることにもかかわらず,聞き取り調査の結果,3種類しか採取されていないことがわかった.S. planaは喘息の治療に使用され,C. speciosusはリウマチや糖尿病,利尿等の治療のために,S. planaは後産医療のために使用されている.演習林から3種類の薬用植物しか採取されていないのは,他の薬用植物は演習林外でも生育し,保存加工できるため手に入り易いのに対して,3種類の薬用植物は演習林のような特定の生息地が必要であり,S. planaC. speciosusは保存加工できないため,市場では売ることができないことためである.
地域住民が演習林内の薬用植物を利用することができれば,演習林管理者もまた薬用植物を利用して演習林の管理,開発,そして保護を行うことができると考えられる.

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© 2004 日本林学会
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