日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: F27
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T4 マツ枯れ・マツ材線虫病研究の現在
マツノザイセンチュウとニセマツノザイセンチュウのカラフトヒゲナガカミキリへの乗り移りに及ぼす温度の影響
*軸丸 祥大
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抄録
 ニセマツノザイセンチュウ(以下ニセマツと省略)が分布していた地域にマツノザイセンチュウ(以下ザイセンと省略)が侵入すると,材線虫病の激害化に伴いニセマツとザイセンの種の置換が起こることが知られている(Kishi, 1995)。しかしながら,この置換のメカニズムについてはほとんど研究がなされていない。従来の研究からマツノマダラカミキリ(以下マダラと省略)やカラフトヒゲナガカミキリ(以下カラフトと省略)への2種線虫の乗り移りを比較し,媒介昆虫への乗り移りの違いが種の置換のメカニズムの一つとして機能していることが示唆されている。 マツ材線虫病には温度依存性があり,高温条件下では被害が拡大し,低温条件下では被害が縮小することが経験的に知られ,材線虫病の各発生要因に及ぼす温度の影響が実験的に検討されてきた。これまで我々によって行われた研究は全て25℃の条件で行っており,温度が媒介昆虫への2種線虫の乗り移りや種の置換にどのように影響するかは不明であった。そこで,本研究では16,20および25℃の各条件で2種線虫のカラフト成虫への乗り移りを比較し,温度が媒介昆虫への2種線虫の乗り移りに及ぼす影響を検討した。2003年5月15日にアカマツ健全木(胸高直径約5cm)を伐倒し,長さ約7.5cmの小丸太を60個作成した。この小丸太の中央に直径約1cm,深さ約5cmの穴(人工蛹室)を開けた後に,ポリカーボネイト製容器に移し,加圧滅菌した。滅菌後,小丸太に青変菌を接種し,25℃全暗の条件で培養した。培養開始から4週間後に30個の人工蛹室にニセマツのみを3,000頭接種し,残りの30個にザイセンのみを3,000頭接種した(それぞれBm区およびBx区とする)。線虫接種3週間後にBm区およびBx区にカラフト幼虫をそれぞれ30頭接種した。カラフト幼虫の接種後,各処理区の人工蛹室を10個ずつ16,20および25℃全暗の条件に移動し,毎日カラフト成虫の脱出を調査した。成虫が脱出していた場合には,ただちに保持線虫数を調べ,同時に人工蛹室の周辺の材を採取し,残存する線虫数およびステージを調べた。それらのデータから全分散型線虫数(保持線虫数+材内に残存した分散型線虫数)及び分散型第4期幼虫出現割合(全分散型第4期幼虫数/全分散型線虫数)を推定した。16℃Bm区,20℃Bm区,25℃Bm区,16℃Bx区,20℃Bx区および25℃Bx区における平均保持線虫数はそれぞれ27,16,316,118,12および4,566頭であった。Bx区においては温度と保持線虫数の間に有意な正の相関が認められたが,Bm区には温度と保持線虫数の間に有意な関係は認められなかった。16℃Bm区,20℃Bm区,25℃Bm区,16℃Bx区,20℃Bx区および25℃Bx区における平均全分散型線虫数はそれぞれ35,897,30,684,50,884,13,882,12,158および21,845頭であった。Bx区およびBm区において温度と全分散型線虫数の間に有意な関係は認められなかった。16℃Bm区,20℃Bm区,25℃Bm区,16℃Bx区,20℃Bx区および25℃Bx区における分散型第4期幼虫出現割合はそれぞれ0.001,0.001,0.007,0.011,0.007および0.246であった。Bx区においては温度と分散型第4期幼虫出現割合の間に有意な正の相関が認められたが,Bm区には温度と分散型第4期幼虫出現割合の間に有意な関係は認められなかった。 本研究によりザイセンの媒介昆虫への乗り移りが温度に依存して変化することが初めて示唆され,このことが高温条件下において材線虫病が拡大する一過程として機能している可能性が示された。一方,ニセマツの媒介昆虫への乗り移りは温度条件に関わらず多くなかった。Bx区において全分散型線虫数と温度の間には関係が無く,温度と分散型第4期幼虫出現割合の間に有意な正の相関が認められたことから,Bx区における保持線虫数の違いは分散型第4期幼虫の出現に及ぼす温度の影響により説明されるかもしれない。以上の結果から高温条件下ほど,ザイセンが枯死木から持ち出される確率がニセマツに比べて高くなり,種の置換が起こりやすくなる可能性が示された。
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© 2004 日本林学会
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