日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: G03
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樹病
Discula属菌によるコナラ灰斑病(新称)
*矢口 行雄小林 享夫小野 泰典渡邉 章乃
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キーワード: Discula属菌, 灰斑病, コナラ
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抄録
1. はじめに 2003年5月、富山県下新川郡で自生する、さらに同年6月北海道函館市で植裁木の、コナラ(Quercus serrata Thunb.)の梢に枝枯れ症状、そして葉枯れ症状を呈する同様な病害が発生した。そこで、病原菌を究明するため枝枯部の分生子層より分離菌を得た。分離菌を健全なコナラの葉に接種試験を行った結果、病徴が再現された。本病は、分生子の形態および系統解析の結果から、Discula属に所属することがわかり、病名をコナラ灰斑病と命名した。そこで、本報告は、コナラに発生した灰斑病の病徴および標徴、病原菌の分離、病原菌の同定、分離菌の生育温度試験、接種試験について報告する。2. 方 法病原菌の分離:病斑上の分生子層の粘塊から単胞子分離を行った。病原菌の同定:それぞれの分離菌をPDA培地で培養後、分生子の大きさを計測した。分生子層の断面は、病葉を2%グルタルアルデヒドで固定後、常法により超ミクロトームで切片を作製した。本分離菌の系統解析による分類学的所属を確認するため、LSU nrDNA D1-D2領域を用いた系統解析を行った。分離菌の生育温度試験:各分離菌の生育温度を調査するため、PDA培地上で培養温度を2, 5, 10, 15, 20, 25, 28, 30 ℃で10日間培養後、菌叢の直径を計測した。接種試験:各分離菌をPDA培地で培養後、コナラをはじめ、ミズナラ、クヌギ、クリ葉に菌叢貼付接種を行った。3. 結果および考察 病徴および標徴:本病の病徴は、はじめ梢の先端部が褐変し、その後、新葉が黒褐色となり枯死した。さらに梢先端部から基部に向かい褐変部が拡大し、周辺の成葉では、はじめ水浸斑となり、その後黒色で不定形の病斑が急速に拡大した。枝部および黒色病葉上には灰褐色の分生子層が多数観察された。病原菌の分離:富山県下新川郡より分離したQs-37菌、および北海道函館市より分離したQs-1菌を以下の実験に供試した。両分離菌ともにPDA培地上で灰褐色から褐色の菌叢であった。病原菌の同定:分生子層は、角皮下に生じ、子座を形成した(図1)。大きさは、80-180μmで分生子形成細胞は無色、隔壁をもち、分岐し、頂部に内生出芽・フィアロ型に分生子を形成した。分生子は、無色、単胞、卵形から紡錘形であった(図2)。大きさは、分離菌Qs-37で、12.8-17.9×5.1-10.2μm(平均14.4×7.8μm)、分離菌Qs-1では、12.8-17.9×5.1-7.7μm(平均14.8×7.5μm)と両分離菌ともほぼ同様な大きさであった。さらに分離菌をLSU nrDNA D1-D2領域を用いた系統解析を行い、これら形態的な結果と系統解析の結果により、本病原菌をDiscula属 (Arx, 1957, 1981, 1987, ; Sutton, 1980)と同定した。分離菌の生育温度試験:分離菌は培地上で20℃を最適生育温度として5-28℃で生育した。菌叢は、灰褐色から褐色で15-25℃で分生子を形成した。  接種試験:分離菌Qs-1とQs-37を健全なコナラの葉に菌叢貼付接種した結果、病徴が再現され、分生子層が豊富に観察された。さらに宿主範囲を検討するため、ミズナラ、クヌギ、クリの葉に接種試験を行った結果、コナラの病徴と同様な結果が得られ、病原性を示した。 以上の結果より、本病をDiscula属菌によるコナラ灰斑病(Gray leaf spot of Oak)と呼称することを提案する。わが国におけるDiscula属菌による病害の報告は、モモタマナ灰色斑点病、スズカケノキ炭疽病の報告のみである。本病菌は形態的観察から分生子層および分生子が炭疽病菌に類似しているため、Colletotrichum属菌と誤同定する可能性がある。本報告では、系統解析を行い明らかにDiscula属菌であることがわかった。しかし、本菌は分生子および分生子層の詳細な形態的観察においても、Colletotrichum属菌と識別できる。
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© 2004 日本林学会
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