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第115回 日本林学会大会
セッションID: P1011
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生態
光環境の違いがケネザサの同化器官と非同化器官の割合に与える影響について
*馬場 深斯 慶図三ツ井 大輔坂本 圭児吉川 賢
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抄録

光環境の違いがケネザサ(Pleioblastus fortunei f.pubescens)の同化器官と非同化器官の割合に与える影響について
○馬場深・三ツ井大輔・斯慶図・坂本圭児(岡大院自然科学)吉川賢(岡大農)
1.目的
ケネザサ(Pleioblastus fortunei f.pubescens)は、本州中部以西や四国・九州など暖温帯域に分布する。その生育立地は裸地、林内、林縁など様々な光環境下にある。林内でササを観察した結果、林内の光環境の相違によってササ丈だけをみても差があることを確認できた。光環境とケネザサの成長には密接な関係があると考えられる。そこで本研究では、光環境の違いがケネザサの成長と同化産物の配分に与える影響について明らかにすることを目的とした。そのために実験的に異なる光条件を設定してケネザサを生育させ、同化器官である葉とそれを支える稈の形態の違い、葉,地下茎および根の乾燥重量とそれらの配分比を調べた。
2.材料と方法
 半田山のコナラ林下層に生育するケネザサの地下茎を5月7日に採取し、実験圃場に植栽した。土壌には川砂を用いた。試験区は森林内の光環境を参考にして、100%,10%,4.5%および1%の4条件とした。光条件は遮光率の異なる寒冷紗を用いて調節した。稈の発生後、発生した稈の地際からの長さ、地際直径、葉数、葉面積、葉厚を測定した。各器官の乾燥重量を推定するために相対成長関係を利用した。すなわち野外に生育するケネザサを対象として、葉については、葉面積と厚さの積と、葉の乾燥重量との相対成長式を求めた。稈については、地際直径の二乗と稈の長さの積と、乾燥重量との相対成長式を求めた。冬季に各処理区の地下茎を3個ずつ掘り取り、根,地下茎,稈および葉の乾重を測定した。また、携帯式光合成測定装置(LI-6400,Li-Cor社製)を用いて、9月に葉の光合成速度の日変化を測定した。7月から10月に光強度を人工的に変化させて光合成速度を測定し、光-光合成曲線を作成した。
3.結果と考察
処理区全体で、植栽後12日目から稈が発生し始め、30日目あたりで発生数がピークに達し、70日目までに85本発生した。稈の発生ピークが過ぎた6月30日(植栽後54日)時点での平均稈長は、相対照度100%区で11.7cm、10%区で31.4cm、5%区で35.7cmおよび1%区で54.2cmであった。1%区が10%区,4.5%区に対して有意に高く、100%区が10%区,4.5%区に対し有意に低い値を示した(Tukey’s HSD-test,p<0.05)。
植栽後50日以内に発生した稈を対象として、その伸長がほぼ停止した138日目の時点で、各処理区に生育するササの地上部について、葉と稈に分けてそれぞれの乾燥重量を推定した。その結果、図1のように葉と稈の配分比は、有意差が認められなかった(Tukey’s HSD-test,p>0.05)。
したがって、同化器官と非同化器官の乾燥重量の割合には光条件によって差がなかったといえる。しかし葉と稈の乾燥重量を比較すると、100%区では、他の処理区に比べ稈は2.5倍、葉は2倍の重量があった。
図1. 地上部の推定乾燥重量比.バーは標準偏差をあらわし、同じアルファベットで示された平均値には処理区間で有意差がないことを示す(Tukey’s HSD-test)。
 植栽後254日目に掘り取りを行い、器官ごとの乾重の比較を行った。葉,稈,旧地下茎,新地下茎および根に分けて、旧地下茎および地下部に対する比率を比較したところ、葉と稈については処理区間で有意差はなかった。地下部では、100%区で新しい地下茎が特に多く発生しており、根と新地下茎について有意差が認められた(図2)。
図2. 地下部の乾燥重量比.バーは標準偏差をあらわし、異なるアルファベットで示された平均値には処理区間で有意差があることを示す(Tukey’s HSD-test,p<0.05)。
 以上のように、処理区間で葉と稈の乾燥重量の比には差がなかったが、100%区では光合成速度が大きく、分枝数、葉,稈および新地下茎の乾重が、他の処理区と比較して有意に高い値を示した。また、100%区では、分枝数が多く高さの低い稈を多く発生させ、葉量が多いのに対して、光強度の低い処理区では、分枝数が少なく高さの高い稈を少数発生させ、葉量が少ない傾向が見られた。

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© 2004 日本林学会
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