日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P1019
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生態
ブナ林床に生育する常緑林床植物のエゾユズリハにおける光合成の温度順化
*片畑 伸一郎楢本 正明韓 慶民角張 嘉孝向井 譲
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抄録

1.はじめに 新潟県苗場山には日本海側を代表するブナ林が存在し、その林床には様々な林床植物が生育している。ブナ林床の光環境は、林冠を構成するブナの着葉の有無によって大きく変動する。上層木着葉期には、林内に差し込む光は少なく、上層木の落葉から積雪までの期間、光は増加するが温度が低下し、生育に適した環境であるとは考えられない。しかしながら、苗場山のような豪雪地域の落葉広葉樹林床の光環境が改善される時期は上層木の落葉から積雪までの期間のみであり、この期間は林床植物の物質生産を考える上で重要な時期である。これまで、筆者らは常緑林床植物のエゾユズリハを対象とし、強光と低温にさらされる上層木落葉期に光防御色素であるキサントフィルサイクルの増加、クロロフィルの組成変化やRubisco量の増加などにより光阻害の回避と光順化を可能にし、物質生産を増加させていることを明らかにした。そこで本研究ではエゾユズリハにおける光合成の温度順化に着目した。植物は常に変動する温度環境に対して順化する必要がある。温度順化することは植物の物質生産を考える上で重要である。我々は、まず、エゾユズリハの当年生の成熟葉における光合成の温度順化について解析した。2.研究材料及び方法 試験地を新潟県苗場山系標高900mのブナ林の林縁及び林内に設置した。ブナ林内の生育環境を調査するため、光量子密度センサー(IKS-27 小糸工業)、温湿度センサー(タバイ ESPEC社製)とデーターロガー(CR10X Campbell Scientific社製)を設置した。2003年8月下旬及び11月中旬に当年生の葉を携帯用光合成蒸散測定装置(LI-6400, Li-Cor社製)を用い、温度別の葉内CO2?光合成速度を測定した。温度別の葉内CO2?光合成曲線から最大RuBPカルボキシラーゼ速度(Vcmax)と最大電子伝達速度(Jmax)及び最大光合成速度(Pmax)の温度依存性を解析した。光合成測定後、葉を数枚採取し、色素組成をHPLC及び分光光度計で測定した。また、80℃で3日間乾燥させた葉を用いて、比葉面積(SLA)と葉内窒素含有量を測定した。3.結果及び考察 8月から11月にかけて温度?光合成曲線は両処理区とも変化した。8月の最大光合成速度(Pmax)の最適温度は両処理区とも25℃付近だったのに対し、11月には15℃付近まで低下した。そこで15℃と25℃で光合成を律束するVcmaxとJmaxの比較をおこなった。8月から11月にかけて林縁では、25℃で測定されたVcmax及びJmaxは低下したのに対し、15℃では変化しなかった。一方、林内では、25℃では林縁と同様に低下したのに対し、15℃では増加した。これらの結果から、林内に生育するエゾユズリハは上層木落葉期の温度低下に対して、低温でのRuBP炭酸同化能力・再生能力を高め物質生産している可能性が示唆された。今後、窒素含有量、色素組成、Rubisco含有量を解析することで、エゾユズリハの光合成の温度順化についてより明確にしたい。

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© 2004 日本林学会
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