日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P1024
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生態
ヒバ実生の根面菌と根内菌
*山路 恵子下田 直義石本 洋森 茂太
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抄録

1. 目的
 青森ヒバ(Thujopsis dolabrataSieb. et Zucc. var. hondai Makino)は実生の生育が遅く、育苗が困難とされていた。ヒバ実生は地床が攪乱された鉱質土壌で出現することが知られているが、森林総研東北支所では鉱質土壌のモデルとしてカヌマ土を播種床に利用し、早期山出し可能な育苗に成功している。しかし苗畑土である黒土ではなくカヌマ土を利用することで、ヒバ実生の根面・根内糸状菌に影響を与えていると考えられる。本研究は両土壌で生育させた実生の発芽率、苗高および根面・根内糸状菌を調査し比較することで、本支所で行われている育苗システムの利点、不利点を解明することを目的とする。
2. 方法
 2002年秋に採取したヒバ種子を2003年4月下旬にカヌマ土及び黒土 (苗畑土)に覆土せずに播種し、7-11月にかけて発芽率および苗高を調査した。7月および9月に実生を採取し、根面・根内糸状菌を調査した。根面糸状菌はHarley and Waid (1955)、根内糸状菌は畑 (1997) の方法に従い分離した。また、arbuscular菌根菌の感染率をGiovannetti and Mosse (1980)によるgridline intersect 法により調査した。
3. 結果
 発芽率は土壌間で差がなかった(P>0.05)。実生の苗高は7-9月には差がなかったが、10・11月に黒土でカヌマ土を上回った(P<0.001)。根面糸状菌は両土壌で大きな差はなく、7月はPenicilliumCladosporiumGliocladiumや種子由来のPetalotiaPhomopsis 属糸状菌、9月はPenicilliumTrichoderma属糸状菌が主に分離された。根内糸状菌は両土壌間で大きな差があった。カヌマ土の実生からは7・9月ともにPhomopsis属糸状菌が分離され、arbuscular菌根菌はほとんど感染していなかった(7月, 0%; 9月, 0.98%)。黒土の実生にはarbuscular菌根菌が顕著に感染しており、感染率は7月に12%、9月に66%であった。
4. 考察
 播種床にカヌマ土を利用するとヒバの発芽率が黒土に比べて上昇するという報告がある(森ら、2003)。しかし本研究では発芽率に変化はなく、カヌマ土を播種床として使用する利点は見受けられなかった。根内糸状菌は両土壌間で大きく異なったが、黒土の実生に共生したarbuscular菌には根部の栄養吸収を助け植物の成長を促進させることが知られていることから、黒土の実生は他の土壌に移植した際にも効率的に成長する可能性が予想された。カヌマ土の実生には根内部に種子由来のPhomopsis属糸状菌が生息していたが、本糸状菌のヒバ実生への影響は現段階では明らかではない。今後は両土壌で生育させた実生を同じ土壌条件に移植し、根内糸状菌の変動を引き続き調査する予定である。

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© 2004 日本林学会
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