日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P2003
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T5 林教育研究の展開
森林の多面的機能の組み合わせに着目した森林教育プログラムの開発
*山本 清龍坂上 大翼柴崎 茂光田中 延亮広嶋 卓也堀田 紀文
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抄録

1.背景と目的 地域の自然環境に対する意識の向上や学校五日制の導入等を背景にして、憩いの場や環境教育のフィールドとして森林への期待が高まっている。2001年11月に出された日本学術会議答申では、農業と森林の多面的な機能に関して、特にその定量的評価を含めた手法や今後の調査研究の展開方向のあり方が示され、研究分野における一層の蓄積と評価手法に関する方法論の構築の必要性が課題として指摘された1)。その中で定量的評価の議論を通し、改めて多面的機能の内容と意義、農業・森林保全に対する国民的理解と合意形成の必要性が主張されたことは注目される2)3)。また、ヨハネスブルグサミットにおける『教育の十年』の流れを汲み、環境保全という限定された範囲ではあるが、2003年7月に「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」が公布され、教育の重要性が再認識されたばかりである。 以上のような学術の動向と社会背景を踏まえた上で森林教育の重要性に鑑み、本研究では、分野横断的な視点から森林が持つ多面的機能の基礎情報を測定・整理し、環境教育における解説や理解を助けるための森林教育プログラムの開発を行うことを目的とした。特に森林教育プログラムの開発にあたっては教育効果の拡大に主眼を置き、解説者にとって応用性が高く、プログラム参加者にとって比較選択性が高いと考えられるモジュール構造を有するものを目指すこととした。また、開発した森林教育プログラムはガイドツアー等を実施することにより、教育効果の検証を行う。このような全体像の中で本報告では主に、森林教育プログラムのテキスト作成過程について報告を行う。2.森林教育プログラムの開発方法 本研究では体験学習の為のフィールドの重要性の認識から、研究対象地として近代日本の象徴4)である富士山を取り上げ、自然環境情報の蓄積が見られる山中湖畔の東京大学富士演習林を研究拠点とした。まず、研究参加者が担当する森林の多面的機能に関する機能分野の割当を行い、パイロットプロジェクトとしての今回の取り組みを保健文化機能、生活環境保全機能、水源涵養機能、木材等生産機能、山地災害防止機能の5機能分野(6研究分野)で構成し、これらの機能の組み合わせによって森林教育プログラムを作成していくこととした。次に、文献調査による各機能分野の情報収集と自然環境に関する基礎情報の整理を行った上で、富士北麓地域における初等中等教育従事者が利用するテキストの作成を視野に入れて、単独機能のテーマ一覧および複合機能のテーマ一覧を作成した。以上を素材として、初等中等教育課程に供される森林教育プログラムに相応しいテーマについて検討を行った。3.テキストの作成過程 大学教育において体験型教育プログラムの開発は教育学(野外教育)の分野を除いて殆ど実績が無い5)ことから、森林研究分野における森林教育プログラムの開発の枠組み自体が新たな試みと言えよう。検討の結果、11の複合機能のテーマが抽出された。森林教育プログラムのテキスト作成過程における論点のうち、主要なものは以下の通りである。1)テキストの構造性 テキストに盛り込むべき情報の中には、普遍的な情報や地域に依拠した情報があり、テキストに構造性を持たせることで情報の階層性に対応する必要がある。但し、情報の階層性に配慮し構造化する際、複合機能のテーマの内容は単独機能のテーマの内容に加えて新しい視点が提示されなければならない。また、機能の組み合わせを考える場合、モントリオールプロセスで提示された7指標やClawson's matrixについても検討材料とし、国内外のプログラムの事例を参照した上で、応用性や比較選択性の観点からテキストの構造が決定されなければならない。2)テキスト掲載用語 森林研究分野で作成されたテキストを教育従事者が理解した後に教育現場において子供達に伝えることを想定し、各段階において用語の分かり易い言葉への変換についても配慮される必要がある。また、体験学習を重視する立場から、子供達の学習機会における教育者の「介入」のあり方についても提案していくことが求められる。3)教育学分野との協働初等中等教育の現場において必要な情報やプログラムが何かを知るために、教育者懇談会や教育者との意見交換の機会を持つ必要がある。また、体験学習の体系化を図る場合に、教育学分野の集団学習法やエンカウンターグループ、教育思想史等の知見を整理し、体験や集団による学習の意義や科学に依拠することの効果、テキストやプログラムのあり方についても配慮されなければならない。

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© 2004 日本林学会
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