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第115回 日本林学会大会
セッションID: P2028
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経営
航空機LiDARによる単木パラメータの抽出
*高橋 與明山本 一清千田 良道都竹 政志
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抄録

航空機LiDARによる単木パラメータの抽出
1.背景と目的
京都議定書の温室効果ガス吸収源関連条項である3条3項および4項の吸収源の定義の中で、国土の多くの森林が既に造成されている日本において必要なのは、ARD活動よりもむしろ森林経営による温室効果ガス吸収であると考えられる。4項において、(1990年以降に)適切な森林施業が行われているならば、その森林を温室効果ガスの吸収源とみなすことができるとされているが、そのように吸収源として認められた森林に対し、必要となるのが森林バイオマスの高精度な推定である。しかし、広域の森林を詳細にモニタリングするには人力だけでは限りがあるため、リモートセンシング技術の併用が有効的であると考えられる。リモートセンシング技術の中でも、近年特に注目を集めているのが航空機LiDARであるといえる。航空機LiDARは物体の位置座標計測の精度が高いため、海外では単木レベルの樹高、樹冠直径、胸高直径、材積などのパラメータの推定に関して有用な結果が報告されている。しかし国内では航空機LiDARを用いた研究は数えるほどしかなく、特にわが国の主要造林樹種であるスギ・ヒノキ人工林における事例は非常に少ない。近年、施業放棄による間伐遅れが進む人工林が多く存在する日本において、京都議定書の3条4項を受け、今後適切な森林施業を行っていく場合には、そのような人工林での航空機LiDARによる詳細な森林情報の把握が重要であると考えられる。そこで本研究では、間伐遅れのスギ人工林を対象に、航空機LiDARによる先に挙げた単木パラメータの抽出を試み、その推定精度の評価を行うことを目的とした。
2.現地調査とレーザーデータ対象地は名古屋大学大学院生命農学研究科附属稲武演習林月ヶ平内の、48年生スギ人工林である。林地に約20m×20mのプロットを設置し、プロット内の正確な樹木位置(胸高位置)の測量および毎木調査を行った。レーザー計測は、2001年8月17日に、対地高度300m、ビームの広がり角0.5mrad、スキャン角60°、ヘリ飛行速度約43km/hで取得した、First およびSecond Pulse (FPおよびSP)データを使用した。また、現地調査はレーザー計測の約2年後に行ったため、プロット付近の標本木3本について樹幹解析を行い、標本木の2年間の成長比率を計算し、それを基にプロット内の全立木についてレーザー計測時期の樹高および胸高直径を推定した。解析では、これらを実測値とみなすものとする。ただし、樹冠直径に関しては、レーザー計測時期とほぼ同時期のオルソ写真を参照した結果、樹冠の隣接状態にほとんど違いが見られなかったことから、現在の樹冠直径を2年前の樹冠直径とみなすこととした。また、立木材積は、胸高直径と樹高の二変数材積式(林野庁計画課編)を用いて求めた。
3.データ解析
取得されたFP, SPデータをそれぞれ解像度50cmのメッシュデータに変換した後、メッシュ内の最大標高値と最低標高値から、それぞれのサーフェス(DSMおよびDTM)を作成した。その際に各サーフェスに存在するノイズを除去後、DSMとDTM の差から林冠高データ(DCHM: Digital Canopy Height Model)を算出した。その後、DCHMにlocal maximum filter処理、および領域分割処理を行うことにより、単木単位の樹冠頂部ピクセルの三次元位置(樹高)および樹冠ポリゴンの面積(樹冠投影面積)を算出した。各単木パラメータの推定値と実測値をリンクさせる基準は、推定樹冠ポリゴン内に入る実測立木位置ピクセルの中で推定樹冠頂部に(X-Y平面上で)最も近接するもの同士を選択する方法をとった。
4.結果と考察プロット内の全立木44本のおよそ80%にあたる36本(プロット内の上層木とほぼ一致)の立木について、樹冠ポリゴン内の推定樹冠頂部ピクセルと実測立木位置ピクセルが1対1でリンクし、その36本について4つのパラメータについて回帰分析を行った。全てのパラメータについて、統計的に切片は原点0と有意な差が認められず、また樹高推定に関しては、傾きが1とほぼ等しかった。樹高推定の精度および正確度が非常に高いことからは、今回のレーザー計測のセッティング(平均的50cmメッシュに1点の点密度計測)で十分に上層木の樹冠頂部を復元(計測)できることが示唆された。また、樹高と樹冠直径を独立変数とした単純な重回帰式(R2=0.794)から胸高直径を推定した結果、その精度は樹高推定に比べて低いことから、今後さらに胸高直径推定に適したモデル式を利用することにより、推定精度が向上すると考えられる。そして、胸高直径の推定精度が向上することにより、立木材積の推定精度も向上することが考えられる。

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© 2004 日本林学会
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