日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P2063
会議情報

経営
広島市における都市拡大と緑地分布
*長島 啓子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

都市の拡大は緑地の減少や分断化,汚染物質の増加,気温の上昇など環境に様々な変化をもたらす.近年,地球規模の環境問題や緑に対するニーズの高まりにより,都市の緑の回復・保全の観点から生活環境を整備することが求められている.これらの動きを受け,緑地の生物多様性の保全機能,気温低減機能や大気汚染物質の吸収・吸着による大気浄化機能を考慮した緑地整備の重要性が指摘されている.これまで生物多様性の保全の観点から緑地の変遷と連結性を議論した研究は数多く行われている.しかし,緑地の気温低減能力や大気浄化能力をも考慮した緑地の配置を議論したものは少ない.広島大学大学院国際協力研究科では,21世紀COEプログラム「社会的環境管理能力の形成と国際協力拠点」の一環として,これら3つの機能を考慮した緑地の最適配置に関する研究を行っている.本研究はその手始めとして,1980年以降の広島市における都市拡大プロセスとそれに伴う緑地分布の変遷を隣接土地利用,傾斜,標高との関係から把握する. 調査対象地は広島市全域および府中町・海田町西部を含む領域とした.近年の都市の拡大状況と緑地分布の変遷は,自然環境GIS(環境省)の第3,4,5回の各調査データを,地理情報システムを用いてオーバーレイすることによって得た.造成によって緑地から改変されたパッチについては,それに隣接するパッチの属性と最も近接する市街地・農村地帯までの距離も記載した.標高・傾斜データは数値地図50mメッシュ(国土地理院)を用いた.緑地の連結性は分断化指数(fragmentation ratio; Young & Jarvis, 2001)を指標とした. 1980年代からの約20年,広島市の森林面積は約1300 ha,農耕地は160 ha減少した.一方,市街地は1017 ha, 草地は約100 haの増加を示した.森林から造成地に転換されたパッチの多くは市街地・農村地帯に隣接していた.立地条件も多くが標高200m以下の緩やかな斜面であった.広島市中心部では大きな改変はなく,緑地の増減もみられなかった.しかし,中心部は緑地がほとんどなく,周辺緑地との連結性は1980年代において既に低い状態にあった.これらの緑地の開発や配置パターンは,これまでの緑地政策と大きな関係があることから,今後は広島市の緑地政策の歴史と緑地分布の変遷の関係を吟味する必要がある.

著者関連情報
© 2004 日本林学会
前の記事 次の記事
feedback
Top