日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P3004
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造林
低温湿層処理期間の違いによるサイシウモミとトドマツ種子の発芽反応
*趙 慧卿高橋 邦秀渋谷 正人斎藤 秀之Kim JongJinHong SungGak
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抄録
1. はじめに種子から実生への定着段階は、更新において最も危険性が高い時期であり、種子の発芽特性は実生の定着を決める上で大きな影響を与える。亜高山地帯の樹種の種子は、冬の間雪中で低温を経験し翌年春発芽することになる。積雪状態は冬の気温と林内の微地形などにより異なり、種子が雪で覆われている期間に違いが予想される。このような種子の雪解け後の発芽特性を把握するために、室内で低温湿層処理後、異なる温度条件により発芽反応を調べる研究が様々な樹種でなされている(4)。
韓国の固有樹種であるサイシウモミ(Abies koreana)は、韓国の一部の亜高山地帯のみに保護林として分布している。近年枯死する個体が増え、また後継樹の更新が少なく(2)、林分維持のため天然更新機構の解明が必要である。更新の初期段階である種子の発芽特性については、発芽率に対する低温湿層効果を調べた報告(3)があるが、発芽過程を詳細に検討したものではない。トドマツ(Abies sachalinensis)は、サイシウモミと類似した気象と植生条件下に分布している(1)が、サイシウモミとは異なり、比較的天然更新が容易な種である。本研究ではサイシウモミとトドマツ種子の発芽特性を把握するために、低温湿層期間と異なる温度条下における発芽反応を調べることを目的とした。
2. 材料と方法
低温湿層処理はそれぞれの種子を加湿した砂と混ぜ、プラスチックバッグに入れ密封した後、3℃の冷蔵庫で30、50、70、150日間保存した。150日は両樹種の生育地でのおおよその積雪期間で、30、50、70日はKim(3)の実験に準じた。発芽試験にはインキュベーター(MTI-202B, 東京理化学機器)を用い、それぞれの種子を50粒ずつ5反復を設定し, シャーレを用いて発芽試験を行った。温度条件は10℃、15℃、20℃、25℃、30℃で制御した。光条件は白色蛍光灯、照度2,600lux、日長8時間である。発芽試験開始から30日間毎日発芽数を記録した。
3. 結果と考察
【低温湿層処理による効果】低温湿層処理なしの対照区の発芽率は25℃で最大値を示し、サイシウモミは21.2%、トドマツは17.2%であり、10℃では両樹種とも0%であった。両樹種とも対照区に比べ低温湿層処理により、全ての温度条件において発芽率が顕著に増加した。20℃を除いて処理期間による違いは小さいが、処理期間が長いほど、発芽率は高くなる傾向があった。低温湿層処理によってトドマツは発芽開始が早くなり、150日処理の場合は低温湿層処理中に既に発芽したものがあったが、サイシウモミでは発芽開始を促進する効果はなかった。発芽勢においても、トドマツでは低温湿層処理によって発芽速度を速める効果があったが、サイシウモミではそのような効果は見られなかった。トドマツでは低温湿層処理によって低温での発芽率が著しく高くなったが、サイシウモミではそれほど大きな効果は見られなかった。【サイシウモミとトドマツ種子の発芽特性】サイシウモミは雪融け後発芽開始までの期間が長いと考えられ、また長期に渡って徐々に発芽し、発芽適温域がトドマツに比べて狭い。一方、トドマツは低温でもかなり発芽し、雪融け後の早い時期に発芽できると考えられる。積雪期間の違いによっては20℃付近では発芽率の違いが予想されるが、他の温度域では大きな影響は受けないことが考えられる。今後樹種間で見られる差とそれぞれの分布地の環境条件との関係を調べ、比較し検討する。
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© 2004 日本林学会
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