日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P3023
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造林
森林林床の光環境を多点で測定する方法
日射フィルムと全天写真
*河村 耕史武田 博清
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抄録

1. はじめに 森林林床に到達する光量子束密度(PFD)は、時空間的な異質性が高い。光量子計の利用可能台数などの制約から、林床の光環境を多点で評価する場合、曇天日に数台の光量子計を使って散光条件下における相対光量子束密度(RPFD)を測定する方法が多く使われてきた。しかしこの方法では、直達光も含めた積算PFDを測定することができない。そこで、本研究は森林林床の積算PFDを多点で測定する方法として、日射フィルムと全天写真の利用可能性について検討する。2. 調査地と方法 調査は、京都市の近郊に位置する京都大学フィールド科学教育研究センター里域ステーション上賀茂試験地(北緯35°04’東経135°46’標高150m)内のヒノキと広葉樹が混交した二次林で行った。2-1. 日射フィルム:約2×2cmにカットした大成化工社の日射フィルム(Oil-Red)数枚と、LI-COR社の光量子センサー1台(LI-190SZ)をセットにし、森林林床(高さ0.5〜5m)に設置した。約10日間露光させたのち回収した。PFDは、2分間隔で測定し積算値を求めた。日射フィルムは、設置時と回収時の透過率(To, T)を簡易光透過率測定器(TS-450)により測定し、換算式1により分光光度計の吸光度(Do、D)を求め、式2により退色率(F)を算出した。以上の調査を2003年の3月から12月にかけて合計39回行った。なお、フィルムの退色率と積算PFDの関係は、温度の影響も受けることが知られていたため、各露光期間中の日最高気温の平均値(K)を求め、式3により温度による補正を加えて解析する。 吸光度 D = a + b (- log (T/100)) ・・・・・式1 退色率 F = 100 - (D/Do)×100 ・・・・・式2  a, b: 測定器の種類によって定められた定数 F = (c K + d)×積算PFD ・・・・・式32-2. 全天写真:2003年の8月に、森林林床(高さ0.5〜2m)に合計30点、日射フィルムを設置した。約10日間露光したのち回収し退色率(F)を求めた。露光期間中に、日射フィルムの直上で全天写真を撮影した。カメラはNikon社のデジタルカメラ(Coolpix 900)に魚眼レンズ(FC-E8)を装着したものを用いた。全天写真からは、解析ソフト(HemiView)を用いて、露光期間内に照射された散光量と直達光量のオープンサイトに対する相対値(ISFとDSF)を求めた。3. 結果と考察3-1. 日射フィルム:フィルムの退色率は0.7〜62%の範囲で、積算PFDは16〜502mol/m2の範囲で、日最高気温の平均値は6〜32℃の範囲でそれぞればらついた。式3より退色率と積算PFDの関係に温度の補正を加え回帰式を求めた: F = (0.003 K + 0.052) 積算PFD ・・・・・式4   r2 = 0.99, P < 0.0001.式4から日最高気温と退色率から積算PFDを求める式5が得られた:積算PFD = F / (0.003 K + 0.052) ・・・・・式53-2. 全天写真:ISFとDSFはそれぞれ2〜13%と0.6〜24%の範囲で、同時に測定した日射フィルムの退色率は5〜78%の範囲でばらついた。退色率はISFでは二次式で、DSFでは一次式でそれぞれ回帰された: F = 0.477 ISF2 - 0.948 ISF ・・・・・式6  r2 = 0.87, P < 0.0001. F = 2.943 DSF ・・・・・式7  r2 = 0.92, P < 0.0001.実際の退色率はISFとDSFの両方の影響を受けて決まっていると考えられる。ISF, ISF2, DSFから退色率を回帰する式をステップワイズ法で求めたところ、説明変数としてISF2とDSFが選ばれた: F = 0.124 ISF2 + 2.082 DSF ・・・・・式8  r2 = 0.93, P < 0.0001. このように、日射フィルムの退色率と日最高気温のデータから高い精度(r2 > 0.9)で積算PFDを推定することができ、全天写真の光指標もまたフィルムの退色率と比較的高い相関を持つことが示された。ただし、全天写真の光指標は散光と直達光を分離してしまう点、画像解析に時間的労力が必要とされる点などから、積算PFDを推定する目的としては日射フィルムのほうがより簡便で精度も高いと考えられる。

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© 2004 日本林学会
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