日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P3037
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造林
三宅島における森林植生回復の現状と植栽木の成長
*戸田 浩人亀谷 行雄江原 三恵生原 喜久雄
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抄録

_I_.はじめに 2000年7月に開始した三宅島活動は今もなお続いており,島の生態系に大きな影響を与えている。島の中心にある雄山の山頂から中腹の環状林道にかけて多量の降灰があり,森林植生は壊滅的な被害を受けた。現在も放出する火山ガスにより風下となる地域を中心に,植生への被害が拡大している。 これまで東京都などが航空実播工や都行造林地の枯損木処理,跡地造林など,緑化を試験的に行っている。しかし,火山灰で覆われた地表面は固結し非常に硬く酸性化も進んでいること,火山ガスの影響などから緑化植物の定着はいまだ難しい。また,緑化で島外からの移入種を導入することにより島独自の生態系を変化させる危険性が指摘されている。本研究では三宅島の環状林道付近を中心に,噴火から3年経過した現在の植生を調べた。また,東京都の緑化木植栽試験地において植栽木の消長と成長も調査し,三宅島の現状において緑化の可能性および有効な樹種について考察した。_II_.調査地の概況および調査方法 三宅島中央部の雄山山頂から中腹にかけて,特に火山灰が厚く堆積し植生の被害は大きい。また,今回の噴火活動では火山ガスの噴出が長期に渡り,二酸化硫黄が現在でも3千_から_1万トン/日のレベルにある。三宅島では南西から西の風の吹くことが多いため,島の北東から東側は火山ガスの影響を受けやく,海岸付近まで被害が拡大し,地表の酸性化も進んでいる。火山ガスや火山灰の地域による違いが,植生にどのような影響を及ぼしているかを検討する基礎資料とするため,島を囲むように20×30_から_40mの調査区を計8ヶ所設け2003年6月,10月に植生調査を行った。植生調査ではツル性,草本,木本すべての種類と分布,木本については高さを測定した。また,オオバヤシャブシ,ヤブツバキ,スダジイの混植地,オオバヤシャブシのみの植栽地において2003年6月と10月の2回,樹高と根元直径を測定した。いずれも植栽は2003年3月である。植栽地では土壌断面の調査も行った。_III_.結果と考察 植生調査の結果,木本の出現本数が多く,優占種(本数%)が木本である調査区は,島の南側と北側の2箇所であった。北東側の1つの調査区は優占種が木本であったが,出現本数・種類数ともに少なかった。その他の調査区は,優占種が草本またはツル性であった。これらには,元の植生による差異もあり,植生被害と回復状況を単純に比較することはできない。しかし,火口周辺の標高の高い地域や島の北東部において,木本植物の出現本数が少い傾向がみられた。この原因は,降灰の厚さと硬さ,現在も続く火山ガスの影響と考えられる。 緑化試験木の混植地における10月時点での枯死率は,オオバヤシャブシが1割,ヤブツバキが3割,スダジイが9割であった。したがって,スダジイは現在の劣悪な環境において生育が困難といえる。また,樹高成長はオオバヤシャブシがスダジイよりも良好であった。オオバヤシャブシは植生調査区にも天然更新している本数が多く,早期緑化に適しているといえる。植生調査区でみられたタブノキやヒサカキは火山ガスに強いと思われ,今後,これらの植栽も検討する必要がある。 オオバヤシャブシ植栽地における10月時点での枯死率は,土壌硬度が山中式で概ね20mm以上の硬土区が3割であるのに対して軟土区が1割であった。これらの樹高(H)と根元直径(D)の平均成長は,硬土区がH:44cmで D:10mm,軟土区がH:52cmで D:10mmであった。火口に近く降灰量が多かった地域では,火山灰が硬く固結しており,植栽時によく土壌表面を堀起こして根の活着を確実にすることが重要である。_IV_.おわりに 今回の調査で,三宅島における植生の現状と早期緑化のための基礎データを得ることができた。今後,定期的に調査を行って回復状況を把握するとともに,土壌の理化学性や微生物特性を調査することで,火山灰や火山ガスによる植生や土壌に及ぼす影響を明かにできると考える。 本研究の一部は,(財)クリタ水・環境科学振興財団の助成によって行った。また,現地調査において,東京都三宅島支庁の皆様に多くの便宜をはかっていただき,東京農工大農学部の山口篤志氏にご協力いただいた。ここに記して御礼申し上げます。

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