日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P3050
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穿孔性虫類が捕らえられたヒノキの水分生理状態
*上田 正文柴田 叡弌
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抄録

1.はじめに1998年9月22日に台風7号が紀伊半島を通過し、森林に多大な被害をもたらした。奈良県内においても、この台風による被害がヒノキ林に生じた。台風は樹木の生理状態に影響をおよぼし、二次性穿孔性甲虫類の加害とそれらによる枯死を助長させると言われている。しかし、外見上健全であるにもかかわらず、二次性穿孔性甲虫類の加害を受けるヒノキの生理状態については明らかにされていない。衰弱した樹木のほとんどは、水ストレスを生じている。また、台風によって樹木の樹幹内水分通導は影響を受ける。そのため、二次性穿孔性甲虫類の加害を受ける樹木の生理状態を把握するために、水分生理状態を測定することは重要になる。樹木の水分生理状態は、プレッシャーチャンバーによる葉の水ポテンシャル測定および「ひずみゲージ」による樹幹直径の日変化測定によって容易に明らかにすることができる。そこで、二次性穿孔性甲虫類の加害を受ける樹木の生理状態を推定するために、1998年の台風以後、台風被害に晒されたヒノキの樹幹内水分通導、葉の水ポテンシャルおよび樹幹直径日変化を測定すると同時に、粘着バンドトラップにより二次性穿孔性甲虫類を捕獲し、二次性穿孔性甲虫類が捕獲されたヒノキの水分生理状態について明らかにした。2.材料と方法奈良県宇陀郡室生村に位置する31年生ヒノキ林(400 m2、34° 35' N, 136° 0' E, 標高580 m)においておこなった。平均樹高は16.3 ± 2.0 m、平均胸高直径は17.1 ± 4.0 cmである。1998年9月22日に最大瞬間風速37.5 m/sec.の台風7号が本林分付近を通過した。この林分から外見上、台風による被害を受けていないヒノキ6個体(供試木No.1_から_6)を選んだ。 穿孔性甲虫類の成虫の捕獲は1999年から2001年まで粘着バンドトラップを用いておこなった。粘着バンドトラップを、毎年4月から9月(2001年のみ8月)までの期間、地上から1.2mの樹幹に巻き付け、それによって捕獲した甲虫類を同定し、捕獲頭数を数えた。粘着バンドトラップを巻き付けた期間は、1998年台風以後、3年間の成虫飛翔期間を含んでいる。樹幹直径日変化を「ひずみゲージ」法により測定した。「ひずみゲージ」は、地上から3mの高さの東側の樹幹部に、外樹皮・内樹皮および形成層を剥皮し、木部表面に設置した。「ひずみゲージ」から得られる値は「ひずみ」(ε) として与えられる。「ひずみ」を1999年4月から2001年8月まで、10分間隔でデータロガーにより記録し、「ひずみ」変化(Rε)を、Rε= dε/dt として計算した。日中(10:00 から14:00)の葉の水ポテンシャルをプレッシャーチャンバーを用いて2001年7月10_から_15日まで測定した。測定には、良く日の当たる当年生葉を用いた。一連の調査を終了した2001年8月に、樹幹を地際で切断し、切断面から1% 酸性フクシン水溶液を吸収させ、樹幹横断面における染色状況を調べた。3.結果と考察供試木No.1_から_3において、ヒメスギカミキリおよびマスダクロホシタマムシの成虫が、台風後3年間毎年捕獲された。供試木No.4_から_6では捕獲されなかった。供試木No.4_から_6では樹幹辺材部が酸性フクシンによって一様に染色された。それに対し、供試木No.1_から_3では、供試木No.4_から_6と比較すると、著しく染色部が少なかった。供試木No.1_から_3における水ポテンシャルは、供試木No.4_から_6よりも低い値を示した。供試木No.4_から_6におけるRεの日変化は、日の出と同時に減少し、午前中に負の最小値を示した後、急速に上昇し、午後遅くに正の最大値を示した。その後、急激に減少した後、深夜は低い正値を示す日変化を示した。それに対し、供試木No.1_から_3におけるRεの日変化は日中振動する日変化を示した。以上の結果からヒメスギカミキリおよびマスダクロホシタマムシが加害するヒノキは、外見上は健全であるにもかかわらず、台風によって被害を受け水分バランスが正常でない状態であると考えられた。

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