日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P3055
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動物
大台ケ原における野ネズミ類の生息状況
特に防鹿柵設置の影響に着目して
*田中 美江大井 圭志福田 秀志柴田 叡弌
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抄録

1. はじめに
 奈良県大台ケ原山では,ニホンジカ(Cervus nippon)の樹幹剥皮による森林の衰退が問題となっている.このため環境省では,保全対策として1987年以降防鹿柵を設置している.防鹿柵の設置後,林床に優占するミヤコザサ(Sasa nipponica,以下ササ)の稈高,稈密度,乾重に柵内外での違いが観察されている(Yokoyama and Shibata 1998).
 ササは野ネズミに餌資源や生息場所を供給すると考えられるため,防鹿柵の設置によるササの変化は野ネズミの生息状況に影響を与える可能性がある.そこで本研究では,特に防鹿柵の設置に着目し,ササの現存量および野ネズミ個体数の調査をおこない,防鹿柵の設置が野ネズミの生息に及ぼす影響を明らかにした.
2. 材料と方法
 調査は大台ケ原山の東大台とよばれる地区でおこなった.高木層にはトウヒ(Picea jezoensis var. hondoensis)やウラジロモミ(Abies homolepis)が,林床にはミヤコザサが優占している.樹木枯死により草原化が進行している地区において,2001年に設置された防鹿柵内外にそれぞれプロットA,プロットBを設置した.また,樹幹剥皮は観察されるものの高木層が維持されている地区にプロットCを設置した.
各プロットのササの形態および現存量を比較するために,各プロット内で50 cm×50 cmの方形区を5ヶ所任意に選択した.この方形区内のササを,剪定鋏を用いて地際から刈り取り,稈高,稈数,乾重を測定した.稈高は各方形プロットにつき任意に選択した50本について測定した.乾重は,稈と葉に分離し,80℃で48時間乾燥させた後,電子天秤で測定した.
2002年9月_から_11月および2003年4月_から_9月の毎月1回,3晩4日間(ただし2003年4月のみ4晩5日間),シャーマントラップを用いて野ネズミの捕獲をおこなった.エサとしてヒマワリの種子を用いた.捕獲個体については種を同定し,捕獲地点で放逐した.さらに,100トラップ・ナイトあたりの捕獲個体数を算出し,野ネズミの生息数の指標とした.
3. 結果
ササの稈高はプロットAで最も高く,プロットBでは平均約13 cmと著しく低かった.稈密度はプロットBで最も高く,プロットAで最も低かった.乾重はプロットAで最も大きく,プロットCで最も小さかった.
野ネズミの総捕獲個体数はプロットC で,プロットA,Bのそれぞれ1.6倍,10.4倍と最大であったが,プロットAとは有意差が認められなかった(表).また,野ネズミ捕獲個体数は,2002年9月および11月を除いて,プロットCで捕獲個体数が最も多く,全調査期間を通じてプロットBで捕獲個体数が非常に少なかった.アカネズミ(Apodemus speciosus)およびヒメネズミ(Apodemus argenteus)は全プロットで捕獲されたが,スミスネズミ(Eothenomys smithii)はプロットBでは捕獲されなかった.
4.考察
野ネズミの総捕獲個体数はプロットCにおいて最大であったことから,草原化により野ネズミの生息個体数は減少していると考えられる.一方,防鹿柵の設置により,プロットAのササの方が稈高は高く,稈密度は低く,乾重は大きかった.ササの稈高の増加は野ネズミを天敵から保護し,稈密度の低下は野ネズミの生息空間を作り出すと考えられる.また,乾重(バイオマス)の増加は草食であるスミスネズミの餌資源を増加させると考えられる.その結果,野ネズミの捕獲個体数はプロットBに比べプロットAの方が多かったと考えられる.したがって,森林衰退による草原化が拡大している地域における防鹿柵の設置は個体数の減少した野ネズミに新たな生息環境を供給したため,柵内での個体数が増加したものと考えられる.

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© 2004 日本林学会
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