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第115回 日本林学会大会
セッションID: P3058
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動物
山梨県長坂町における森林面積率とオオムラサキの生息密度との関係
*小林 隆人北原 正彦
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抄録

日本の国蝶であるオオムラサキはかつて落葉広葉樹二次林の普通種であったが、高度経済成長期以降の二次林の開発によって、生息密度は全国的に減少している。このため各地で生息地への立入禁止や放蝶などの保全活動が行われるようになったが、それらによって生息密度は上昇していない。本種の保全には生息地の維持管理が重要で、そのためには生息密度とその規定要因を明らかにする必要がある。こうした立場から、筆者らは栃木県真岡市において本種の密度に及ぼす森林面積の影響について報告した。しかし、この結果が他の地域でも当てはまるのかは判っていない。各地域個体群の生息条件を明らかにすることで、その地域に対応した確実な保全対策を講じることができる。山梨県北巨摩郡長坂町は二次林が比較的広く残存し、全国で最も本種の生息密度が高い地域である。このため、同町では本種と人間の共存を目指した森林の開発施工法が求められる。本講演では、長坂町における本種の保全対策を講じるための資料を得るため、二次林の面積率が高い同町西部(深澤区)と南部(富岡区)に2.500×400mのプロットを設置し、成虫および越冬幼虫の密度、幼虫の寄主植物の密度(樹高2m以上の木)を調べた。深澤での土地利用は、二次林、水田、休耕地、幹線道路であり、大深澤川沿いに立地する二次林の面積率は極めて高い。一方、富岡では宅地、休耕地、畑、荒地の面積率が高く、二次林の面積率は低い。二次林は溶岩台地である七里岩の斜面と上部の平坦地に見られ、斜面では帯状に連続するが、上部平坦地では住宅や田畑に分断されパッチ状に分布する。2地区とも寄主植物としてエノキとエゾエノキが認められた。富岡では両樹種とも(A)七里岩斜面の沢地形、および斜面と上部平坦地との境界に沿った二次林の林縁、(B) 斜面に人為的に作られた保護区、(C)七里岩上部の平坦地にパッチ状に分布する二次林林縁、およびその付近の荒れ地で認められた。AおよびCではエノキあるいはエゾエノキが1ないしは2_から_30本程度の小集団で存在した。Bで見られたエノキは植栽されたもので、2_から_3m間隔の格子状に存在した。 一方、深澤では大深澤川沿いに発達する二次林で認められた。特に、両樹種とも氾濫原、谷壁斜面下端の急斜面、中洲、川に対し直行する小さな沢の下方などに多く認められた。両樹種の総本数は深澤では1683本、富岡では825本と顕著に異なった。このうち富岡では98%(807本)がエノキであったのに対し、深澤ではエゾエノキが73%(1228本)を占めるなど、2地区の間で両樹種の割合は有意に異なった。富岡でのエノキとエゾエノキの本数割合を A_から_Cの3タイプの場所で比べると、いずれもエノキが多い傾向があったが、オオムラサキ保護区(B)ではエノキの割合が極めて高く、A_から_Cの場所間での両樹種の本数割合の差は有意であった。深澤での成虫の密度は午前(44.2/2kmの歩行)、午後(47.5)とも富岡(午前:2.2、午後:2.0)を大きく上回り、差は有意であった。2地区とも成虫の多くは林縁部の樹冠付近を飛翔していた。富岡での吸汁源はクヌギの樹液のみだったが、深澤ではコナラの樹液、林道や畑の湿った地面、石垣、獣糞など多様であった。調査本数に対して越冬幼虫が見つかった本数の割合は深澤で100%であったのに対し、富岡では68%と有意に異なった。幼虫の木当たり個体数の平均値は深澤では58.2、富岡8.3と、前者が有意に多かった。深澤ではエゾエノキでの個体数(平均71.0)が、エノキ(45.5)よりも有意に多かった。富岡において、幼虫が発見された木の本数割合を寄主植物の3タイプの出現場所の間で比べると、斜面の二次林(A)では83%、斜面に造成された保護区(B)で47%、上部の平坦地の荒れ地およびパッチ状の二次林(C)で73%となり、場所間での差は有意だった。木当たりの幼虫数の平均もAで13.7、Bで3.0、Cで8.3となり、差は有意だった。以上の結果から、森林の面積率が本種の生息密度に及ぼす影響について検討した。

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