タイ国乾燥落葉林において、防火措置が養分循環をどのように変化させるかを明らかにするため、野火侵入後の経過年数が異なる3林分(35年:F35、10年:F10、0年:F0)のリターフォール量とA0層を調査し、これらの違いが窒素還元様式に及ぼす影響について考察した。
年間リターフォール量は3.92から8.79t/haであり、野火侵入後の経過年数と共に増加し、樹木が回復あるいは新規加入している影響がみられた。リターフォールの季節変化は、どのプロットでも雨季に少なく、乾季に多く、乾季中盤の12月から1月にピークがみられた。リターフォールの窒素濃度はプロット間で差がなく、どのプロットにおいても成長期の雨季に高く、落葉期の乾季に低い傾向がみられた。濃度とリターフォール量から推定した地表への年間窒素還元量はF35、F10、F0の順に123.8、75.1、33.4kg/haであり、防火措置により窒素還元量は4倍に増加した。
A0層量とリターフォール量から求めたリターの年間消失係数はF35、F10、F0の順に1.250、1.153、2.906とF0で最も大きかった。また、窒素の消失係数も、F35、F10、F0の順に1.265、0.935、2.138であり、F0で最も大きかった。このようにF0で消失係数が大きいのは、乾季の野火によって蓄積されたA0層が焼失してしまうためである。毎年の野火侵入によって、F0では他の防火措置をしたプロットに比べて養分循環へのA0層蓄積量の寄与が低く、C/N比の高いリターフォールで養分の還元が行われていることが考えられた。