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第115回 日本林学会大会
セッションID: P3121
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九州北・中部における異なる母材に由来する褐色森林土群の化学特性
pH、炭素、窒素と遊離酸化物
*今矢 明宏
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抄録

褐色森林土群は、他の土壌群のように特徴的な層位の発達は見られないが、層位の分化が進み未熟土群とは区分される土壌の総称で、温帯域にあたる全国に分布し我が国森林土壌の約7割がこれに区分されている。このため森林が果たす温暖化物質蓄積能等の機能の精密な評価に対し、土壌型レベルで広範に同じ区分となる土壌が存在することとなり、その差異を表すには不十分である。そこで褐色森林土群の化学的特徴を明らかにし、その数量的評価法を確立することによって、この問題に対処することを目的として、本研究では表層地質の違いが、土壌母材として褐色森林土の化学的特徴に及ぼす影響を明らかにするため、福岡、佐賀、熊本、宮崎県下において採取した褐色森林土群(典型亜群、黄色系亜群)の、pH、全炭素、全窒素、遊離酸化鉄、アルミニウムを測定した。
pH値は、蛇紋岩、石灰岩を表層地質にもつ土壌で高く、それ以外の表層地質では、pH(KCl)の値のみ溶結凝灰岩でやや高い以外は明瞭な違いはなかった。pH(H2O)の垂直分布様式は、深さに伴う変化を示さないもの、表層でやや高いが、下層ではほぼ変化を示さないもの、そして表層で著しく低く、深さに伴い急激な上昇傾向を示すが下層においては変化を示さないものの3つに区分された。
全炭素、窒素含有率は、溶結凝灰岩を表層地質にもつ土壌が、表層部において一部を除いて他の土壌より高い傾向が認められたが、石灰岩などにおいても高い含有率を示すものがみられた。
遊離酸化物のうち、ジチオナイト可溶鉄は、花崗岩を表層地質にもつ土壌で低く、砂岩、蛇紋岩、溶結凝灰岩、角閃片岩、石灰岩と高くなっていた。しかし、酸性シュウ酸塩可溶鉄では、溶結凝灰岩、蛇紋岩で高くなっていた。アルミニウムについては、ジチオナイト可溶、酸性シュウ酸塩可溶とも、溶結凝灰岩の表層部で高いが、それ以外では明瞭な違いはなかった。
宮崎県下で採取された溶結凝灰岩を表層地質にもつ土壌の一部は、他の土壌とは異なり表層部で高い遊離酸化物含有率を示していることから土壌母材への相当量の火山灰の混入が示唆された。pH(H2O)の垂直分布様式において表層から下層へ向けての急激な上昇を見せた土壌は、これらと一致しており、この特異な上昇傾向を示す深さの範囲は、火山灰の影響を受けている層位の範囲と関係していると考えられた。そのため遊離酸化物含有率が低く火山灰の影響を受けていないとみられる下層では、他の土壌と同様、深さに伴う変化を示さない。またこれに伴いpH(H2O)とpH(KCl)の関係もA層とB層では異なっており、火山灰の影響がないか少ないと考えられるB層では、どの表層地質の土壌も類似の傾向を示すのに対し、火山灰の影響が強いと考えられる土壌のA層では、同じpH(H2O)を示していても他の土壌より高いpH(KCl)を示していた。
炭素含有率に及ぼす遊離酸化物の影響を、ジチオナイト可溶鉄、アルミニウム、酸性シュウ酸塩可溶鉄、アルミニウムのそれぞれについてみると、ジチオナイト可溶鉄は炭素含有率と、表層地質ごとでも全体でも相関がみられなかったが、酸性シュウ酸塩可溶鉄では、これが高い表層で炭素含有率も高くなっており下層との差が大きかった。またこの炭素含有率の低い下層を除いて、表層地質ごとにほぼ一定の範囲を示していた。これに対し、アルミニウムでは、ジチオナイト可溶、酸性シュウ酸塩可溶とも炭素含有率が断面内で最大となる最表層または火山灰の影響を受けている土壌ではA層においては、炭素含有率との相関関係は不明瞭であるが、それ以外の層位ではこれらの間には正の相関が見られた。また断面を一つの単位として考えると、これらの遊離酸化アルミニウムが高い断面では、高い炭素含有率を示す傾向にあり、遊離酸化物が炭素の蓄積に関与していることが示唆された。また最表層では遊離酸化物の含有量以上に炭素が蓄積していることになるが、これは分解の未熟な有機物の存在量が多いことを示唆したものと考えられた。
このように表層地質によって褐色森林土の化学性に差異が生じており、中でも火山灰が土壌母材として及ぼす影響の大きいことが明らかとなった。

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