日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P4010
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樹病
常緑広葉樹4種の異なる葉齢における内生菌の季節的変動
*渡邉 章乃上田 奈実矢口 行雄
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抄録

1. はじめに2002年渡邉らは本大会において、常緑および落葉広葉樹8種の葉から葉面菌および内生菌の分離を行った結果、それぞれ特徴ある菌類が分離されたことを報告した。すなわち葉面菌ではAlternaria属、Cladosporium属、Microsphaeropsis属、Pestalotiopsis属の4属菌が高頻度に分離され、また内生菌ではPhyllosticta属、Phomopsis属、Glomerella cingulataの3属菌が高頻度に分離された。特にG.cingulataPhyllosticta属は、葉面ではほとんど分離されず、代表的な内生菌であることがわかった。そこで本報告は、常緑広葉樹4種の葉の成長と内生菌との関係について解明するため、当年生葉と1年生葉を経時的に採取し、内生菌の分離、同定を行い、さらに季節的変動についての調査を行った。2. 方 法東京農業大学世田谷キャンパス内にある常緑広葉樹、トウネズミモチ、サンゴジュ、キョウチクトウ、ヤマモモの4種の当年生および1年生葉を供試した。当年生葉は、新葉が展開した2003年4-11月まで、1年生葉は同年3-11月までの間、2週間に1回、葉を経時的に採取した。その後、当年生葉においては葉柄を除く葉の先端から基部までの葉身および葉幅を計測し、葉面積(葉身長と葉幅長の積を2/3倍, Shimwell,1971)を求めた。葉の計測は、2003年4-8月まで行った。採取および計測後、直ちに直径1cmのコルクボーラーでくり抜き、葉ディスクを作製し、70%エタノール30秒→1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液1分→70%エタノール30秒→滅菌水30秒で表面殺菌処理を行った。その後、葉ディスク3枚を葉の表面にPDA培地が接するように置床し、室温下で3週間の培養を行った。発生した菌類は、分離、同定し発生率を求めた(発生したディスク数 / ディスク数×100)。3. 結果および考察1)当年生および1年生葉から分離された内生菌常緑広葉樹4種の当年生および1年生葉から分離された菌類を同定した結果、全調査期間に当年生葉で306ディスクから17属菌が分離でき、1年生葉では704ディスクから14属の菌類が分離、同定できた。すなわち当年生葉が1年生葉に成長するに従い内生菌は増加傾向を示すことがわかった。分離した菌を同定した結果、当年生および1年生葉ではほぼ同様にPhyllosticta属、Phomopsis属、G. cingulataの順に高頻度で分離された。これは2002年に同様な調査を行った渡邉ら(2002)の報告に類似した。このことからPhyllosticta属、Phomopsis属、G. cingulataの3属菌は、常緑広葉樹4種の当年生および1年生葉における代表的な内生菌であることが示唆された。    2)葉の成長と内生菌の関係 当年生葉の成長と内生菌との関係を検討するため、常緑広葉樹4種の新葉展開後から葉面積を調査した結果、新葉から成葉に成長する期間は樹種によって差がみられた。すなわちキョウチクトウとヤマモモでは約30日であり、これに対してトウネズミモチとサンゴジュでは、約60日であった。新田(1995)は、常緑広葉樹8種において2_から_6週間で葉の成長は完了すると報告し、本実験の結果もこれに類似した。 次に葉の成長と内生菌の発生について調査した結果、新葉から葉の成長がほぼ止まる間の成長期には、内生菌の発生は低く、葉が成長するに従い内生菌の発生は増加した。すなわち成長期には、葉面からの感染が低いことが示唆された。 3)異なる葉齢における内生菌3属の季節的変動当年生および1年生葉で高頻度に分離されたPhyllosticta属、Phomopsis属、G. cingulataの季節的変動を調査した結果、トウネズミモチとキョウチクトウでは、新葉が展開した4月の早い時期から発生がみられたのに対して、サンゴジュとヤマモモでは7月頃から発生し、樹種により新葉展開後の内生菌の発生時期が異なった。さらに、トウネズミモチとサンゴジュでは、当年生および1年生葉において3属菌の発生がほぼ同様にみられたのに対して、キョウチクトウとヤマモモでは、葉の成長に伴いPhyllosticta属菌の発生が顕著にみられた。以上の結果より、常緑広葉樹4種の葉における内生菌の発生を当年生および1年生葉に分けて調査した結果、明らかに樹種により新葉展開後の内生菌の発生時期が異なり、さらに内生菌の中でも樹種により優占的に発生する菌が異なることがわかった。

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© 2004 日本林学会
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