日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P4013
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樹病
ナラタケ属菌の菌糸成長に及ぼす界面活性剤の影響
*栗原 怜子松下 範久鈴木 和夫
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抄録

1、目的
ならたけ病の病原菌であるナラタケ属菌は、わが国に11種存在することが確認されている。近年、種ごとに生理生態的特徴が異なることが明らかにされつつあり、ならたけ病やナラタケ属菌に関する研究を行う上で、種の同定は欠かせないものとなっている。ナラタケ属菌の種の同定は、既知種と未同定種の単相菌糸間の交配試験により行われている。しかし、ナラタケ属菌は人工培養基上に子実体を形成することがまれであるため、同定したい菌株の単相菌糸が得られない場合が多い。これまでに、シイタケやヒラタケにおいて、界面活性剤を培地に添加することにより、子実体形成や菌糸成長が促進されることが報告されている。そこで、本研究ではナラタケ属菌の子実体形成方法を確立するために、ナラタケ属菌の菌糸成長に及ぼす界面活性剤の影響について検討を加えた。
2、方法
実験には、Armillaria gallica、A. mellea、A. ostoyaeの3種各1菌株を用いた。界面活性剤を添加したMYG平板培地に各供試菌株の培養菌糸体を接種し、23℃で3週間培養した後、菌叢の形態観察を行った。界面活性剤は、サポニン、SDS、Triton X、Tween 40、Tween 80を用い、添加量は0.1、1、5%とした。次に、サポニン、SDS、Triton X、Tween 40、Tween 80をそれぞれ5%添加した大麦_-_鋸屑培地にA. gallica、A. ostoyaeの培養菌糸体を接種し、23℃で4週間培養した後、培地中のエルゴステロール量を測定した。また、Tween 80を5%添加した大麦_-_鋸屑培地に各供試菌株の培養菌糸を接種し、23℃で1、2、3、4週間培養した後、培地中のエルゴステロール量を測定した。
3、結果と考察
界面活性剤を添加したMYG平板培地を用いて培養を行い,菌叢の形態観察を行った。その結果、Tween 80を5%添加することにより、すべての菌株において気中菌糸の減少が認められ、A. ostoyaeにおいては根状菌糸束の増加が観察された。
次に、ナラタケ属菌において子実体形成が報告されている大麦_-_鋸屑培地を用いて、菌糸成長に及ぼす界面活性剤の影響を調査した。サポニン、SDS、Triton X、Tween 40、Tween 80のいずれかを添加した大麦_-_鋸屑培地を用いてA. gallicaおよびA. melleaの培養を行った結果、サポニン、Tween 40、Tween 80を添加した培地において、菌糸成長の促進が観察された。しかし、Triton X添加培地においては菌糸成長の抑制が観察され、SDS添加培地においては菌糸成長が認められなかった。Tween 80を5%添加した大麦_-_鋸屑培地を用いて菌糸成長量を調査した結果、供試3菌株において培養1週間後から、培地中のエルゴステロール量が有意に増加し、培養4週間後ではA. gallicaでは2倍、A. melleaA. ostoyaeでは1.5倍にも増加した。
以上の結果から、大麦_-_鋸屑培地へのTween 80の添加は、ナラタケ属菌類の菌糸体の培養に有効であることが示唆された。

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© 2004 日本林学会
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