日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P4101
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経営
不成績造林地跡に成立した広葉樹二次林の構造と成長(_I_)
樹種分布に及ぼす地形と施業歴の影響
*崎尾 均石橋 整司佐々木 章子
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抄録

目的  埼玉県の北向き斜面の森林では、冬季の寒風害のために不成績造林地化した落葉広葉樹林がしばしば見られる。広葉樹二次林の構造は、沢すじ・尾根などの地形の影響だけでなく、その施業方法の影響を大きく受けることが予想される。特に、残存木は、伐採木から発生した萌芽の成長を抑制するし、発生した実生の生存をとおして侵入樹種を制限する。本研究においては、広葉樹二次林の樹種構成やサイズ構造が過去の施業の違いや地形によってどのような影響を受けているか明らかにすることを目的とした。調査地 調査地は埼玉県比企郡都幾川村大野に位置し、クリ・ヤマザクラ・クマシデ・ミズナラなどを林冠木とした落葉広葉樹林である。土壌は褐色森林土で、標高650mから770mの北東向きの斜面で、傾斜は10-40度である。1993年に15km東に離れた鳩山町で観測された年降水量は1415mm、年平均気温13.1度である。標高100mあたりの気温の低減率を0.6度とすると、調査地の年平均気温は約9.3度である。方法 1993年5月に2.67 ha の調査地を設定した。調査地は、林相と地形によって1_-_4区に区分した。1_-_2区は、ヤマザクラとクリを上木として残してスギが植林された48年生の林分である。3_-_4区はすべての広葉樹が伐採されスギが植林された。3区は40年生で急傾斜の尾根部分を含んでいる。4区は35年生で、調査区の端を渓流が流れている。1993年6_-_7月にこの林分の毎木調査を行った。胸高直径5cm以上のすべての樹木の樹種・胸高直径・萌芽を測定し、樹木の位置図を作成した。結果(1)樹種構成 1区と2区では、アブラチャン・クマシデ・クリ・ヤマザクラ・ミズキ等が優占種し、樹種構成がほぼ同じであった。出現樹種数、本数密度もそれほど差が見られなかった。3区では、クマシデ・ヤマザクラ・ミズキに加えてイヌシデ・ミズナラ・リョウブ・アオハダの本数が多かった。また、ヤシャブシ・アセビなどの尾根に分布する樹種も見られた。4区では、クマシデ・ミズキに加えてフサザクラ・ミズナラ・アワブキが優占種であった。また、チドリノキ・ヤマハンノキ・サワシバなどの渓畔樹種も含まれていた。(2)サイズ構造 4調査区のすべての樹木の平均DBHにははっきりした差は見られなかったが、クリとヤマザクラのDBHには、有意差が見られた。クリでは、1区と3・4区、2区と3・4区に、ヤマザクラでは1区と3・4区、2区と3区に有意差が見られた。一方、各調査地にほぼ同じ個体が分布するミズキでは、4つの調査区の間にDBHの有意差は見られなかった。(3)樹種分布 クリは1・2区に、ミズナラは3区に集中していた。ヤシャブシとリョウブは3区の尾根部に集中していた。フサザクラは3_から_4区の渓流に沿って多く分布していた。考察 ヤマザクラとクリを残した過去の施業歴は現在の二次林の樹種構成やサイズ構造に影響を与えていた。1・2区で切り残されたクリとヤマザクラは、そのまま成長を続けることによって、萌芽から成長した3・4区の個体より大きなDBHサイズを示した。萌芽から更新したと思われるミズナラは3・4区では本数密度が423本/ha、162本/haと多いのに対し、1・2区では15本/haと非常に小さな値を示した。これは、1・2区では伐採によって発生した萌芽が、残存木による被陰によって成長できずに枯死したためと考えられる。また、残存木の影響は種子で侵入した実生の成長をも制限したことが予想される。また、尾根や沢沿いでは、地形に対応した樹種分布が見られたが、これらは萌芽能力の高い、撹乱耐性樹種やパイオニア種に限られていた。

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© 2004 日本林学会
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