日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P5120
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防災
2000年有珠山噴火の噴出物堆積斜面において侵入植生の根系が表面流流出特性に与える影響
*藤本 拓史山田 孝
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抄録

火山地域では、噴火により植生が破壊され火山灰などの細粒物質で斜面が覆われると、地表の浸透能が低下し、表面流による侵食が高頻度に発生する。しかし噴火からの時間経過とともに、流出土砂量は指数関数的に減少することが経験的に知られている。土砂の流出が少なくなると山腹斜面が安定化し始め、その結果植生の侵入がみられるようになる。植生は、根系の土層侵入や植生地上部、落葉層による地表被覆などによって浸透能に影響を与えることが言われており、噴火後の植生定着はその後の表面流発生に大きく関わると考えられるが、不明な点が多い。
そこで本研究では、植生の根系の作用に着目し、侵入植生根系が表面流流出特性に与える影響について検討した。
研究対象地は有珠山地域の、2000年有珠山噴火後に著しい植生の侵入・回復がみられる西山火口周辺とした。調査期間は2002年5月_から_2003年11月である。噴火口付近には表面流による侵食によって形成されたガリーがいくつか見られたが、調査期間内にはその大規模な発達は見られなかった。火山噴出物の堆積土層は、地表20cm深さ程度までに粘土質の土層があり、その下にやや粗粒の土層がみられた。
植生の定着実態を把握するため、2000年の空中写真によって裸地化した面積を求め、現地観測によってその後に定着した植生の面積を測定した。
次に、侵入植生の中で優占しているとみられたオオイタドリに着目し、その根系の堆積土層への侵入が浸透能に与える影響を検討した。そのために、オオイタドリが顕著に定着しており、斜面勾配が約11°、火山噴出物の堆積厚が約1.5mでほぼ一様な斜面に40m×10mの試験区を設定した。その 試験区内において、オオイタドリ定着部と非定着部である裸地で、マスグレーブ管による浸透試験をそれぞれ12地点行った。この方法での試験は実際より値が大きくなるとされているため(3)、比較のための相対値として扱うこととした。また予備浸透試験により試験開始後10分までにほぼ一定の値(最終浸透能)に落ち着く傾向がみられたため、試験継続時間は20分間とした。
浸透能の差異は、植生根系に加えて土壌特性である堆積土層構造、堆積物粒径の差異に関わることが考えられた。植生根系に関しては、根系の体積と浸透能との関係を検討した。ここで、オオイタドリは一個体が数本の植生地上部のまとまりで株立ちしており、地上部本数が多いほど根系の体積が大きいことが分かっており、地上部本数と浸透能の関係を求めた。堆積土層構造については、試験後に各試験地点を掘削して土層断面を観察した。堆積物粒径については、オオイタドリ定着部と裸地部のそれぞれ3カ所から堆積物を採取し、粒度分析を行った。
試験地内で2000年噴火によって裸地化した面積はおよそ6.5haであった。そのうち噴火口を除いた部分に、噴火後3年で定着した植生の割合は、オオイタドリが約30%(1.8ha)、スギナが約8%(0.5ha)と、草本植生の顕著な侵入が確認された。噴火口については、火口内部の土砂が斜面流出することは考えにくいことから省くこととした。
浸透試験について、オオイタドリ定着部の最終浸透能と植生地上部本数との関係は、図1のようになった。データのばらつきは大きいが本数が多くなるほど値は小さくなる傾向がみられたことから、根系の体積の増加が浸透能を低下させる影響を与えた可能性が考えられた。またオオイタドリ定着部と裸地の各12試験の最終浸透能を比較すると、オオイタドリ定着部では30_から_230mm/h、裸地では60_から_460mm/hの値の分布を示し、前者は最大値が小さくかつ分布範囲の狭い浸透能となった。堆積土層構造や粒径組成は、オオイタドリ定着部と裸地で大きな違いがなかったため、これらの差異にも根系の影響が関わったと考えらた。
本研究対象地は、極めて細粒の粘土質土層が地表付近に存在し、オオイタドリ根系は大部分がこの粘土質土層中に発達していたため、植生根系が浸透能を大きくするという効果は発揮されにくい環境だったことが考えられる。また以上の結果は、あくまで植生定着後1、2年のものであり、今後時間の経過とともに、根系の腐朽などにより植生定着部での浸透能は大きくなっていくと予想され、現地の表面流発生実態の観測とともに今後の継続的な測定が重要と考えられた。

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© 2004 日本林学会
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