‘染井吉野’はサクラの栽培品種のなかでも特に馴染み深い花木であり、その起源については様々な研究分野において熱心に調べられてきた。著者らは昨年の森林学会において、核SSRマーカーを用いたDNA多型分析を行い、‘染井吉野’の起源について再評価した。その結果は、‘染井吉野’の起源にエドヒガンとオオシマザクラが関与し、他の野生分類群が関与する可能性は低いことを、改めて示すものであった。本研究では、更に詳細な解析を行い、‘染井吉野’がオオシマザクラとエドヒガンの雑種第一代である可能性が高いことを明らかにした。また、‘染井吉野’と他の栽培品種の遺伝子型を比較したところ、‘染井吉野’が片親であるとされる栽培品種(‘衣通姫’、‘咲耶姫’、‘仙台吉野’など)だけでなく、DNAの突然変異などを考慮して数座のミスマッチを許容する場合、サトザクラ系の栽培品種のいくつかについても親子関係が成立し得ることがわかった。これらの栽培品種は、‘染井吉野’と直接の親子関係を持たないかもしれないが、何らかの血縁関係はあると考えられ、‘染井吉野’とサトザクラ系の栽培品種の作出過程に共通の親個体が関与している可能性が高い。