抄録
ナツツバキ属(Stewartia)はツバキ科で唯一落葉樹から構成される属で、日本にはナツツバキ・ヒメシャラ・ヒコサンヒメシャラの3種が分布する。これらのうち、ナツツバキは東北南部以南に広く分布するのに対し、ヒメシャラとヒコサンヒメシャラは神奈川県以西の太平洋側に分布が限定されている。本研究では、このような分布様式の違いや種間交雑の影響が、3種の遺伝構造にどのように反映されているかを明らかにするため、葉緑体ハプロタイプの地理的分布を調査した。
ナツツバキ19産地(おもに北陸・中部地方)、ヒメシャラ19産地(分布域全体)、ヒコサンヒメシャラ6産地(東海・九州)の各産地1~4個体について、葉緑体DNAのpsbA-trnH領域約400bpのシーケンスを行った。1か所のモノヌクレオチド・リピートを除いて各個体のハプロタイプを決定した結果、全体で7つのハプロタイプが検出された。ハプロタイプの地理的な分布は、3種いずれもランダムなものではなく、地理的な構造がみられた。7つのハプロタイプのうち3つは種間で共有され、一部で同所的な共有もみられたことから、浸透交雑の可能性も示唆された。