抄録
ササ型林床において、マウンド・ピットの形成は実生の定着を促進するため、風雪による根返りは森林の維持機構において重要なプロセスである。これに対し、幹折れは土壌の攪乱を伴わないため、相対的に更新への寄与は小さい。一方で、樹幹内に腐朽を有する樹木は脆弱となり、腐朽比率の増加に伴い、被害形態は根返りから幹折れにシフトする。したがって、ササ型林床における実生更新の機会を考察する上で、林冠木の腐朽状態は重要な因子である。そこで本研究では、九州大学北海道演習林内の老齢ミズナラ天然林に設置された2haの固定調査区において、林冠木の腐朽程度の評価を目的とした。2014年9月にラインプロット(10m×180m)を3箇所設定し、ミズナラ各個体の腐朽率(樹幹断面積に対する腐朽面積比率)をレジストグラフ(IML社製RESI PD500)を用いて判定した。その結果、73個体中17個体(23.3%)に腐朽が確認されたものの、そのうち13個体では腐朽率5%以下であり、最も高い腐朽率は35%であった。腐朽率がおよそ50%を超えると、幹折れとなる比率が大きく増加することが知られているため、本調査地において風雪による被害形態は、ほとんどの個体で根返りになると推察される。