多数の国民を苦しめているスギ花粉症の林業的側面からの対策として,雄性不稔スギの植栽は有効な手法であると考えられる。全国的にも無花粉苗の作出は進められ,系統数も増えつつあるが,造林や木材利用の観点からは成長や材質に優れた系統の作出が求められる。そのため,雄性不稔遺伝子(ms-1)をヘテロ型で保有する静岡県産精英樹大井7号と神奈川県産精英樹中4号の交配によりF1を作出し,それらの初期成長と材質を評価した。交配によって得られた個体のうち雄性不稔個体は22.9%で,分離頻度は理論値に近かった。2ケ所における植栽個体の樹高成長量では,雄性不稔個体と可稔個体とに有意差が認められなかった。雄性不稔個体を母樹とした挿し木苗を育成したが,4年生母樹と2年生挿し木苗のいずれにおいても相対的な成長が良好なクローンの中には,同時期・同所に植えた他の精英樹挿し木苗よりも成長が優れるものが存在した。4年生母樹の応力波伝播速度法とタッピング法でヤング率を測定したところ,雄性不稔個体と可稔個体とに有意差が認められなかった。