氷ノ山後山那岐山国定公園内の若杉ブナ天然林では、森林構造調査からササの一斉開花枯死がブナの更新動態と関係している可能性が報告されているが、動態解析等を含めた議論はない。本研究では、林分動態、実生動態、年輪解析、および遺伝構造の解析から、ササの一斉開花枯死との関係を含めてブナ個体群の更新動態を考察する。長期毎木調査区における19年間の林分動態解析から、優占種であるブナ、ホオノキ、およびミズメの個体群が全て縮小していることがわかり、林冠木を対象とした年輪解析から、ブナはホオノキおよびミズメより樹齢の幅が広く、肥大成長パターンに個体差が大きいことが明らかになった。また、ブナ実生はブナ繁殖個体の周辺で多く発芽し、ブナ繁殖個体の近接区域および開空率が低い場所でその後の生残率が低かったが、ササの幹密度はブナ実生の生残に大きな影響を及ぼさなかった。以上から、本林分におけるブナ個体群の更新は、ササの一斉開花枯死よりも小規模な林冠ギャップに依存していると考えられた。さらに、最近接のブナ繁殖個体と血縁度が高いブナ実生に生残率が低い傾向がみられ、近接個体間の遺伝的類似性が低下している可能性が示唆された。