流域の水資源管理では山体スケールでの水の貯留・流出経路の理解が重要である。流域面積と比流量の関係は、表土層と風化岩盤含む地中の水移動を知るのに有効な可能性がある。数~数十km2の流域で行われた既往研究では、流域面積の増加に伴い比流量が増加する流域、減少する流域、ほぼ一定の流域が報告されているが、各分布と貯留・流出経路の関係について明らかにした例は少ない。本研究では荒川源流の付加体堆積岩からなる東大秩父演習林で平水時の比流量を流域内13箇所(0.05~94km2)で調査したところ、面積101km2程度までは、流域面積増加に伴い比流量が増加した。降水や渓流水の水安定同位体比や3ヶ所での連続的な量水観測から、斜面で岩盤中に浸透した水のかなりの部分は、小さい流域では流出せず、下流の大きな流域で流出する水移動が卓越することがわかった。また地中の水移動には不均一に存在する岩盤の亀裂などが寄与していること、流域面積101km2を超えると降水量から蒸発散量を引いた量がほぼ流出することが示唆された。流域面積-比流量の関係は、山体スケールでの貯留・流出プロセスを把握するのに有効であった。