大津市守山地区の里山では、かつて「あぶらぼん」と呼ばれるキノコが採取・利用されていた。現地における聞き取り調査から、1950年代から急激に採取・食用の経験が衰退し、1970年代には、ほぼこのキノコの姿は見られなくなっていた。採取・食用の経験者によると、商品価値の高かったマツタケとは異なり、「あぶらぼん」は集落の近傍に発生し、女性や子供でも手軽に採取できるキノコだった。また、味噌汁など日常的な調理方法で食用とされていたが、その食味が高く評価されていた。こうしたことから、「あぶらぼん」は何らかの環境変化により消失してしまったキノコではあるが、再生できるならば、里山と集落住民の関わりを再構成する動機となる可能性がある。聞き取り調査で得られた「あぶらぼん」の特徴から、キノコの正体を探った。確度の高い候補種について、その発生地において経験者が実際に採取をし、さらに食味を確かめたところ、「あぶらぼん」とされてきたキノコは、腐植生菌のチャナメツムタケ(Pholiota lubrica)であると推定された。同定が正しければ、守山地区で「あぶらぼん」が衰退した要因を検討することで、里山と集落住民の関わりの再構成に寄与しうる。