従来加藤, 山口らは, 人間が騒音から受ける心理的印象を判断することは"あいまいな"事象であるとの立場から, ファジィ理論を援用してこの印象を定量化することを試みている。しかしながら, それらの騒音に対する静かさ-騒々しさに関するメンバーシップ関数の計測法は, 原理的段階にとどまっていた。本論文は, 今後, 物理領域と心理領域との関係を押し進めて考察して行くために, 従来の計測法の問題点を改善して, 多くの人々のメンバーシップ関数を容易かつ効率的に計測するシステムを提案したものである。具体的には, 本システムは大きく次の2つの機能からなっている。(1)ノート型パソコンの制御により, 被験者への呈示騒音とその心理的印象を測定し, データを集積する。(2)測定データに基づき直交かつ凸なメンバーシップ関数を推定する。本システムを被験者4人に適用した結果, 各被験者は個性ある心理的応答を示し, そのメンバーシップ関数を安定して計測出来ることを示している。最後に, これまで他の研究者により提案されているいくつかのメンバーシップ関数推定手法を概括して, 本手法との差異・本手法の特色等をまとめている。その結果本手法は, (1)分解原理に基づく新たな手法であること, (2)多くの仮定を設定せず, 適用範囲が広く実用的な手法であること, 等を明らかにしている。
