集団力学
Online ISSN : 2187-2872
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日本語論文(英語抄録付)
コアタスク分析
組織と技術のフィールドワーク
八ツ塚 一郎
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2014 年 31 巻 p. 73-96

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抄録

 レーナ・ノロスらによって実践され提唱された「コアタスク分析」の概要と理論的骨子、分析の具体的事例を整理し紹介する。ときに甚大なリスクをもたらす現代の技術、複雑化をきわめる近年の組織や職場に対しては、個人の行為を分析単位とする在来の心理学モデルは不適切である。コアタスク分析では行為論そのものを刷新し、集合体のマクロな動態の一側面、社会と文化の意味づけによってのみ成立する断片として行為を位置づけ直す。個々人の行為は、一方では、環境的なドメインからの制約ないしアフォーダンスの提示によって、その可能性を与えられる。他方、根拠づけられ習慣として確立することによってはじめて、当該の行為は具体的な現象として成立する。行為はこれら2方向の作用の重なり合いによって成立する。コアタスク分析では、双方の作用をそれぞれ、活動理論と記号論を用いて記述し、行為が成立するための潜在的な背景を明らかにする。そのうえで、行為が連鎖して形成されているプロセス全体の挙動と、プロセスのコントロールに不可欠の要諦をなすコアタスクを摘出する。複雑化した現代の組織や技術においては、単独の個人の行為がその成否や安寧を決定することはあり得ない。連鎖するプロセスにおいて、その進展を制約し、目的の達成を左右するコアタスクを的確に遂行している集団のみが、深刻なリスクを回避できる。麻酔科医の活動と熟練プロセス、および、大型船舶の運航とリスク回避についての2事例を取り上げて解説するとともに、コアタスク分析の理論的背景と具体的な展開、記述することの意味にもたらす変化について検討した。

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