地学雑誌
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論説
冷温帯広葉樹林における土壌呼吸に対する土壌生物呼吸の寄与率の季節および年変化
友常 満利増田 莉菜吉竹 晋平安西 理小泉 博
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2013 年 122 巻 4 号 p. 745-754

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抄録

 土壌呼吸に対する土壌生物呼吸の寄与率の季節および年変化と,それらの変化が森林生態系の炭素収支に与える影響を明らかにするために,呼吸量・土壌温度・土壌水分量の関係と約3年間の土壌生物呼吸の寄与率の季節および年変化を推定した。土壌生物呼吸はトレンチ法を用いて土壌呼吸から分離し,2009年11月から2012年9月まで土壌表面からのCO2放出速度を土壌温度,体積土壌含水率とともに測定した。また,トレンチ法の問題点である枯死根の分解にともなうCO2放出を,従来法よりも正確に考慮するため,これらの季節および年変化をルートバッグ法と2つの分解モデルを用いて推定した。
 その結果,土壌温度や土壌水分量に対して土壌呼吸と土壌生物呼吸は異なる応答を示した。土壌温度の上昇にともない各呼吸量は上昇し,その応答性は土壌呼吸よりも土壌生物呼吸の方が低かった。一方,土壌水分量の上昇に伴い,土壌呼吸は増加したのに対して,土壌生物呼吸は減少した。したがって,土壌生物呼吸の寄与率は土壌温度及び土壌水分量が上昇するのにともない減少した。これらの結果は,土壌温度と土壌水分量の両方が同時に変化する野外環境において,呼吸量や寄与率が複雑に変動することを示唆している。
 本研究において土壌生物呼吸の年寄与率は2010年,2011年ともに62%であったが,この寄与率は大きな季節変化(60~100%)を示した。これらの季節変化を考慮しなかった場合,推定される2010年の土壌生物呼吸量は1.50から2.51 kg CO2 m-2 yr-1で変動し,この値は季節変化を考慮した場合(1.56 kg CO2 m-2 yr-1)の96~161%の値となった。また,土壌生物呼吸の寄与率の推定に土壌水分量を考慮しなかった場合,年寄与率は80%となった。この値から推定された土壌生物呼吸量は2.01 kg CO2 m-2 yr-1となり,土壌水分量を考慮した場合の128%の値となった。一方,寄与率の年変化は非常に小さく,推定される土壌生物呼吸量に大きな影響はなかった。したがって,森林生態系においてより正確な土壌生物呼吸量や森林の炭素収支を明らかにするためには,土壌生物呼吸の寄与率が明確な季節性を示すこと,そして土壌温度だけでなく土壌水分量による影響を強く受けていることを考慮することが重要である。

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© 2013 公益社団法人 東京地学協会
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