2016 年 125 巻 1 号 p. 121-132
本論では,最近の火星における各軌道衛星・着陸船・探査車による探査計画によって判明した,過去から現在までの水成侵食地形について概観する。過去に存在した湖や海洋に関連する地形的証拠には多種多様なものがある。例えば,堆積岩層,土石流跡,河谷,沖積扇状地,巨大多角形土,そして氷河・周氷河地形などである。おそらく古海洋の存在を示す最大の証拠は,海岸線に対応する地形的境界に沿ってみられるデルタ地形であろう。化学・鉱物・元素上の諸特性も水の関与する風化作用が働いていたことを明示する。さらに,マーズ・グローバルーサーベーヤー,マーズ・オデッセイ,マーズ・リコネッサンス・オービターに搭載された高解像度カメラも,現成の可能性もある新しい水成活動を示す詳しい地形を撮しだした。スロープ・ストリーク,スロープ・リニア,断層・断裂に沿ってあるいは地質境界や地質構造に端を発するガリー,開放系ピンゴなどが該当する。これらの過去から現在までのさまざまな地形は,長期にわたる地表や地下の水文環境を示唆すると同時に,火星が「地球外生命はどこに存在するか?」という永遠の問いに答える最大の候補地であることを物語っている。