地学雑誌
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ローヌ氷河と気候変動
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2025 年 134 巻 4 号 p. Cover04_01-Cover04_02

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抄録

 スイスのローヌ氷河では1874年から毎年その形態が測量されてきたが,末端の位置は現在までに1.9 km後退しており,13 m/年の後退速度になる.

 左の写真は,1900年8月にスイス工科大学地理学教室の初代教授・フリュー博士によって撮影されたもので,アルプスの小氷期の最終期に相当する.ローヌ氷河は急峻な斜面を氷瀑となって流下し,末端はグレッチ平原と呼ばれる海抜1,790 mの平野部に達している.写真の氷河の左手(右岸)に隣接して当時まだ形成中のモレーンが見られ,小氷期の終焉を標す指標として使われている.

 右の写真はおよそ100年後の2004年に筆者の教室の故Dr. U. Moserが撮影したもので,この時点の後退速度は20 m/年まで速まっている.氷舌はかっての氷瀑の上まで後退している.2004年夏,かっての氷瀑の底岩と後退している氷舌の間に小規模の湖が現れ,一時的現象でないと判断されて,国土地理院に相当するスイス地形局(Swiss Topographic Office, Swisstopo)はRhonesee(ローヌ氷河湖)と正式に命名している.

 気温上昇は特に1980年以降顕著になり,2024年までの45年間では10年間に0.42℃の昇温率となっている.年間降水量はやや増加の傾向にあるが降雪量は明瞭に減少傾向にある.気温上昇と降雪減少の同時現象が氷河の急速な縮小と後退を引き起こしている.左右の写真を比較すると氷河変動に加えて,この100年間に起こった植生の変化を読み取ることができる.もっとも顕著に認められるのはスイスマツ(Swiss Pine, Pinus cembra)の侵入で,現在ではローヌ谷上部で広範に見られる樹木となった.現在進行中の気候変動がこのまま継続すると仮定すると,今世紀の末までにローヌ氷河は現在の面積の85%を失うだろうと予測されている.

(大村 纂)

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