地学雑誌
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音波検層データをつかった地層透水性の評価
遠藤 猛
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2006 年 115 巻 3 号 p. 383-399

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抄録

坑井内音波検層で観測されるストンレー波は地層の透水性と相関のあることが知られている。本論文では, 坑井内音波検層で測定されるストンレー波形を用いた波形インバージョンによる, 透水性の評価について述べる。ストンレー波では, 坑井内を伝播する際, 地層が透水性をもつ場合, 速度の低下, 振幅の減衰が起こる。その現象はビオの理論により, 定量的に記述されており, 実験的にも検証されている。しかし, 実データから透水性の定量的なインバージョンを行うためには, いくつかの課題がある。ストンレー波に対する透水性の影響は微小であり, 定量的なインバージョンのためには, 正確な物理モデルとパラメータの依存性を考慮した最適なインバージョンアルゴリズムが必要である。実際の坑井内を伝播するストンレー波の物理モデルには坑壁に形成される泥壁の影響を含める必要がある。泥壁は, 坑井内流体と地層の間の圧力相互作用を減衰させる効果があり, それゆえ, ストンレー波に対する透水性の影響を減少させる。この効果は, 弾性的な薄膜として, モデル化される。本論文で用いるストンレー波伝播モデルは地層および坑井の13のパラメータで記述される。それらのパラメータの多くは検層測定により直接に求めることができるが, いくつかのパラメータは他のデータより間接的に推定する必要がある。本論文では, ストンレー波分散の各パラメータに対する依存性を求め, その重要性を理論的に評価した。その結果, (1) 坑井内流体の速度および (2) 減衰, そして (3) 地層内流体の体積弾性率が特に重要であることが示された。これらのパラメータは間接的に推定する必要があり, その方法について説明する。インバージョンアルゴリズムについては, 透水性に対する感度を最適にするために, ストンレー波速度および減衰の周波数分散を解析する。
ストンレー波による透水性の評価は連続測定が可能という特徴があり, また, 誤差を理論的に評価することができる特徴がある。今までは, 石油探査への応用が主であったが, 今後は地球科学への応用も期待される。

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