2025 年 2025 巻 54 号 p. 111-132
『秒速5センチメートル』(2007年公開)は,新海誠監督によるアニメーション映画であり,繊細な映像美に彩られた切ない悲恋の物語である。本稿の目的は,主人公・遠野貴樹の分析を通じて思春期・青年期の心理について検討することである。まず本作の「高さ」というモチーフが何を表すか検討したところ,①鳥瞰的な視点の獲得,②理想への邁進,③現実からの遊離と考えられた。特に現実で居場所のない孤独な少年は,現実から極端に離れ,人間関係をほとんど持たず,情緒さえ遠い場合がある。しかし,時に彼らは理想化した女性イメージとの内的な関わりを通じて成熟していくことを検討した。