日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第54回大会・2011例会
セッションID: A1-1
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日本手拭いにみる江戸歌舞伎役者文様
日本衣文化の被服教材への活用
*富士栄 登美子
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抄録

【目的】
平成元年告示の学習指導要領で高校家庭科男女共通履修となって後,被服製作教材の工夫は多々なされてきた。本研究では,手拭いに着眼した。なぜなら手拭いの長さのスペースがあればよい。幼児服なら縫う距離も短く製作時間が少なくて済むからである。甚平の場合,和裁の基礎・基本を全て入れることができる。
さらに,日本文化の継承に重きをおくとき,江戸期に流行した歌舞伎役者文様に目を向け,日本の文化をもう一度思い起こす。歌舞伎文様については,先行研究として,すでに,谷田,小池等によって為されている。ここでは,被服製作及び日本の文様を和の文化として伝え,被服教材に役立てることを目的としている。

【方法】
(1) 歌舞伎・役者文様が染められている手拭いの購入から始めた。
入手した文様は次のとおりである。手拭いの歌舞伎役者文様は,今では現代風にアレンジされ,江戸のセンスを感じさせてくれる。
・弁慶格子・菊五郎格子・市松格子・三筋格子・三升格子・高麗格子・播磨屋格子・市村格子・中村格子・芝翫縞・三つ大縞・観世水・亀蔵小紋・蝙蝠文様・かまわぬ・よきこときく・半四郎鹿子,他に日本の文様として・匹田・青海波・波に兎・荒磯・吉原繋の文様の手拭いを入手した。
江戸期の浮世絵(美人画,役者絵),洒落本,雛形本,女重宝記,浮世風呂,好色一代男,女用訓蒙図彙,近世奇跡考,近世時様風俗などにあたって,役者文様を探し,当時の流行を裏付ける。
(2) 手拭い3本から幼児の甚平&パンツの製作と授業実践
琉球大学教育学部家庭科教育法A(2年次,授業時間内)と家庭科教育法C(3年次,授業時間外)で授業実践を行った。学生数は,合計9名。時間数は,総計360分。
甚平は和裁の基礎縫いを,パンツは洋裁の基礎が教えられる。
甚平:・三つ折りぐけ・折り伏せ縫い・袋縫い・耳ぐけ・本ぐけ額縁仕立て・二目落とし・千鳥がけ
パンツ:・縫い代を割る・折伏せ縫い・端ミシン・三つ折り縫い
(3) 被服用語(言語活動)として,「きせをかける」,「しつけをする」,「袖口側,袖つけ側」「褄」など。

【結果】
(1) 上記のように,歌舞伎役者文様は,幾多もある。例えば三升は,成田屋を連想させる役者文様で,「単純に寓意というよりはやや複雑な気分の象徴に連なる構造をもっている」。(谷田)その文様の寓意を解してはじめて,文様を理解したといえる。
(2)古代の石畳文様を江戸歌舞伎役者佐野川市松が舞台で衣装に使ったところから市松文様と呼ぶようになった。それまであった石畳文様が江戸期に市松模様として流行した。文様そのものには変わりがないが,その文様の寓意は変わる。現代では,市松文様を石畳文様と呼ぶ人はほとんどいない。と同時に,それを役者佐野川市松と連想する人もまた少ない。
(3) 一方で,麻の葉模様を半四郎鹿子(大和屋岩井半四郎)として流行したが,市松のように,名称を変えるまでには至らなかった。音羽屋尾上菊五郎が好んで用いた,よきこときく文様は,「良き事を聞く,斧(よき)・琴・菊文様」の吉祥文様であり,成田屋市川團十郎好みの,鎌と輪と平仮名のぬの文字を用いた「かまわぬ文様」と同様に,江戸の頃,謎解き文様として流行した。
(4)被服教材として歌舞伎役者文様の手拭いを選んだが,教材費としては高い。文様を限定しなければ,かなり安い手拭いを用意することができる。授業時数が取りにくいときは,甚平でなく,手拭い2本からつくるキャミソール&ブルマーの製作を奨める。さらに時間がなければ,手拭い1本からつくるみゆき袋などもいい。
(5)平成23年度には,沖縄県立高等学校2校に於いて,本研究の授業実践を予定している。

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