日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第54回大会・2011例会
セッションID: A2-6
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「近代家族」を超える家族の教材を求めて
*鈴木 敏子山田 美砂子
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抄録

【目的】
 わが国の現代家族も、「近代家族」の規範や枠組みと家族の現実や国民の家族意識の変容との間で様々な問題が生じている。こうした状況において、2008~09年に改訂された学習指導要領の家庭科では、「社会の変化に対応」して「家族と家庭に関する教育」が重視された。その場合、家族研究ではすでに自明となっている「近代家族」を超える家族観・家庭観が育まれることが必要であると考え、それに有効な教材を探ることを課題にしている。本研究では「赤ちゃんポスト(こうのとりゆりかご)」に注目し、小学校教員免許を取得する大学生の意見を参考に、それを教材としていくことを模索することとした。
【方法】
 対象:Y大学教員養成系学部で、2010年度後期に開講した「小教専家庭科」(2クラス)の受講者125名(内1年生118名で1年生総数の半数)。進め方:児童相談所における児童虐待相談件数の推移および最近の育児放棄や児童虐待の事例についての新聞記事を用いて家族、母親、子育ての状況について把握した後、「赤ちゃんポスト『こうのとりゆりかご』」について知っているか否かアンケートし、次いでNHKテレビで2009年6月2日の0時10分~40分に放映された「アレ今どうなった? 命を救いたい・・・?赤ちゃんポスト?・現場で何が」を録画したビデオを授業中に視聴した。参考として「朝日新聞」2009年12月5日付記事「もっと知りたい! 赤ちゃんポスト 母親の苦悩」を配布。視聴後に記された感想を分析する。分析数:1年生の内、課題資料が揃っている95名(男子44名、女子51名)。
 それにあたり、「小教専家庭科」の開講時に無記名で記載してもらっていたファミリィ・アイデンティティとしての自分の家族から受講生の家族構成の特徴をみると次のようである。回答者115名中、父母と子どもからなる核家族が54%で、他のほとんどは祖父母などのいる拡大家族である。家族人員は4人が37%、5人が27%で、平均5.6人となる。父親がいない者が7名である(内、2名には祖父母がいる)。なお50数%が親元を離れて大学生活をしている。
【結果】
1.「赤ちゃんポスト『こうのとりゆりかご』」について「よく知っている」8名、「聞いたことがある」72名、「ほとんど知らない」15名であった。十分に知っているわけではないが、まったく知られていないものでもない。中学校や高校の授業で扱った、受験勉強の時事問題で学んだ、地元熊本出身などが合わせて数名あった。しかし聞いたことがある程度で客観的に捉えたり考えたりするまでにはいたっていない。男子より女子の方が知っている傾向にある。
2.ビデオ視聴後の学生の自由記述には、賛否の立場とその意見が記され、論じ方には子どもの立場か母親の立場か2つの立場がみられる。概して、まず、「赤ちゃんポスト」とは、若くして望まない妊娠をし、産んだ子どもを安易に遺棄する母親に対して、遺棄や虐待から救われた命、かわいそうな子ども、という構図によって世間では賛否の意見が一面的に心情的に展開していく状況がつくられていることが推測された。それはある面「近代家族」観によるものであろう。しかし、児童虐待の背景や「赤ちゃんポスト」のビデオを通して、そこに至った母親の事情や気持など、また慈恵病院の相談体制とも併せた取組みの実態などを把握することによって、その役割、存在の意義などが理解され、「近代家族」観を超えようとする兆しが見出せる。だが、「近代家族」像を体現している学生たちには、自分たちにはありえないこととして捉えられている傾向も見受けられ、別報の聾特別支援学校高等部の生徒の思いとに違いが感じられ、そこを超える学習の課題と方策をさらに追求することを課題とする。

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© 2011 日本家庭科教育学会
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