日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第61回大会/2018年例会
セッションID: A2-6
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手縫いの基礎的知識と技術の定着を促す研究
家庭科教員免許の取得を目指す大学生を対象に
*大塚 吏恵池﨑 喜美惠鳴海 多恵子
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抄録

研究の背景と目的
 高等学校家庭科は、1989年に男女共修となり1999年に「家庭基礎」が導入され衣生活領域の実習時間が大幅に削減された。小学校,中学校では布を使った生活に役立つ物の製作となり、被服製作の内容として基礎的な知識と技能が重視されるようになった。近年の児童・生徒の手指の巧緻性の低下は、被服学習の進度に影響を及ぼし、学習内容の検討を余儀なくされている。また、生活環境も大きく変化し、合理性や利便性が優先され、親が子どもに教える頻度は低く、子どもたちの家庭での布を使ったものづくりの体験は減少している。
 学校教育で身に付けた、被服製作の基礎的知識と技術は、生活に役立つ補修のためだけでなく、衣生活を創意工夫するためにも必要な技術と捉えられる。そのため、家庭科教員を目指す大学生が将来指導者として、子どもたちにものづくりの楽しさを伝え、主体的な学びを実現させるためには、十分な知識と技術を身に付ける必要があると思われる。
 そこで、本研究では、大学生の小・中・高校家庭科の被服製作学習の基礎的技術の定着状況を明らかにし分析することと、被服製作の基礎的知識と技術の定着を促す教材を研究し、その効果を検証することを目的とする。
研究の方法
 大学生の手縫いの基礎的技術の定着の現状を調べるために実技テストを実施した。調査項目は、「玉結び・玉どめ・まち針の打ち方・かがり縫い・三つ折り・しつけ・まつり縫い・本返し縫い・ボタン付け」である。調査対象者は、T大学家庭科選修・専攻の1年生27名である。調査時期は、2017年4月の授業時で、被服製作の専門的授業を受講する前とした。小・中学校の手縫いの基礎的知識と技術が復習できる教材として考案した「手縫いで作るバッグインポーチ」の製作授業を、2016年と2017年に実施した。製作の資料には、知識を深め技術の応用につながると思われる理由や目的など、学習できる内容を加えた。授業対象者は、T大学家庭科選修・専攻の2016年の1年生29名と2017年の1年生26名である。製作時間は約3時間である。製作後に再度アンケート調査と実技テストを行った。また、現職の家庭科の先生12名にも、同作品を製作してもらい、手縫いの基礎的知識と技術の定着を促す教材として適当であるか評価してもらった。
結果及び考察
 実技テストの結果、9点満点中平均5.3点であった。最も定着率の低かった項目は「まつり縫い」で、できた者は27人中2人だけだった。知識の定着を調べるアンケート調査(大塚 2017)では、「まつり縫い」は56%の者ができていたが、実際に手を動かしてみると、理解できていないことが明らかになった。「まち針の打ち方」は、まち針を横にして打っているものや三つ折りから外れて打っているもの、向きが反対のものが目立った。「本返し縫い」は、最初の針を入れるところで迷い、表と裏が反対になってしまった者が7人いた。「かがり縫い」は、6人がブランケットステッチを行っていた。
 「手縫いで作るバッグインポーチ」の製作の結果、知識については、事前の平均得点は7点満点中3.7点で、事後は5.1点となり有意に高かった。技術については、事前の平均得点は9点満点中5.3点で、事後は6.9点となり有意に高かった。したがって、「手縫いで作るバッグインポーチ」の製作は、基礎的知識と技術の定着に有効であると考えられる。また、現職の家庭科の先生からは、「小学校から中学校で学習する手縫いの基礎的技術が、すべて含まれているため手縫いの復習になる」「資料の中の理由が理解の向上と応用につながる」「内袋を付けているが難易度は高くはなく、完成度が高いため製作後は達成感があった」「手持ちの材料を利用して製作できるため経済的で、生活にも役立つ作品である」という評価を得られた。しかしながら、短時間で製作させるための教員側の事前準備の負担が大きいという課題が明らかになった。

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© 2018 日本家庭科教育学会
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