抄録
【目的】文部科学省は「学校における教育の情報化の実態に関する調査」として,平成16年度から「学校におけるICT環境の整備状況」,平成18年度から「教員のICT活用指導力」調査を全国の公立学校(小学校,中学校,高等学校,中等教育学校及び特別支援学校)を対象に毎年実施している。ICT環境の整備状況,教員のICT活用指導力いずれの実態も年々向上しているが,都道府県,市町村における地域差も存在している。各教科におけるICT活用の状況については調査されていない。全国家庭科教育協会(ZKK)は,「家庭科におけるICT活用の実態に関する調査」を平成27年度に指導主事,平成28年度にはZKK会員を対象に実施し,平成29年10月に結果が公表された。しかしZKK会員の回答者の約7割が高等学校教員であり,中学校教員の実態が明らかになったとは言い難い。先行研究では,ICTを活用した授業づくりや指導については見られるが,中学校家庭科教員のICT活用の実態については,明らかにされていない。そこで,本研究では平成28年度に神奈川県を対象とした調査に続き,平成29年度に最先端の取り組みと実績をもつ佐賀県を対象に調査し,ICT環境の整備状況が家庭科教員のICT活用指導力に与える影響やICT活用指導力とICT活用に対する意識との関わり等を,神奈川県の調査結果との比較から明らかにすることを目的とする。
【方法】平成28年度に実施した神奈川県の調査と同じ内容で,ICT活用の先進県である佐賀県公立中学校86校の技術・家庭科(家庭分野)担当教員を対象に,郵送による質問紙調査を実施した。質問項目は,1.文部科学省実施調査「教員のICT活用指導力」(A教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力,B授業中にICTを活用して指導する能力,C生徒のICT活用を指導する能力,D情報モラルなどを指導する能力,E校務にICTを活用する能力),2.家庭科の授業におけるICT活用,3.家庭科担当教員としてICT活用に関する意識・考え,4.属性とした。
【結果】1.文部科学省の調査結果から,佐賀県はICT活用指導力A~Eすべての項目で神奈川県の結果より大きく上回っていたことから,佐賀県中学校家庭科教員(以下,佐賀)も神奈川県中学校家庭科教員(以下,神奈川)より高い結果になると予測されたが,5項目中4項目が神奈川を下回る結果となった。また,佐賀県中学校の結果と大きな差があることが明らかになった。佐賀と神奈川の共通した課題は,項目C「生徒のICT活用を指導する能力」であり,佐賀が神奈川を上回った項目B「授業中にICTを活用して指導する能力」は,ICT環境の整備されていることで盛んに活用されている表れと言える。2.ICT活用の実態は,神奈川では「毎回,ほぼ毎回」と頻繁にICT活用する割合が約10%に対し,佐賀は約45%を超えていることから,授業中にICTを活用する経験を積み重ねていることがわかる。「ICT活用した授業をほとんどしない,全くしない」という割合が約30%と高い神奈川の理由は,ICT環境の不備によるもの,自身のスキルや自信のなさによるものが多かった。ICT活用の方法は,総じて「教員が主体」となり「普通教室・被服室」で,「一斉学習」の形態で,「導入・展開」の場面での活用であった。佐賀では「まとめ」にも多く活用されていた。さらに,佐賀では電子黒板,タブレットが多用され,神奈川に比べて様々な目的で活用されていた。3.ICT活用の意識について,佐賀は「得意で積極的に活用している」割合は神奈川より少ないが,「楽しく積極的に活用している」が約70%と高かった。
【今後の課題】両県共通して,電子黒板・タブレットに対して授業改善の可能性を意識し,その操作スキル,デジタル教材作成のスキル獲得が求められていた。学校内でのICTに関する学び合いの醸成,家庭科教員間の教科指導におけるICT活用の検討が求められる。