日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第61回大会/2018年例会
セッションID: A2-3
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高等学校「家庭基礎」におけるホームプロジェクトを軸にしたカリキュラムの検討
家庭科教師の意識と取り組みの実態に基づく考察
*中村 誉子鈴木 明子
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抄録

【目的】
 高等学校家庭科に必修内容として位置づくホームプロジェクト(以下,H.P.と略記)は,自らの生活課題を追究して解決していく問題解決的なプロジェクト学習であり,主体的で深い学びを習得する学習の場である。しかしながらこのH.Pが本来の機能を発揮しているとは言い難いと考えられる。またこれまでH.P.の効果的な学習方法についての先行研究は多くみられるものの,H.P.をカリキュラムの軸として構想し,その成果を検証した研究はみられない。そこで新学習指導要領の改訂の方向性を踏まえ,H.P.学習の本質にせまり,その本質に基づいたカリキュラムを追究する必要がある。本報告では,高等学校家庭科教師のH.P.学習に関する意識と取り組みの実態を調査することによって,課題を明らかにすることを目的とし,今後のH.P.を軸としたカリキュラム提案の検討に生かしたい。

【方法】
 広島県の国公私立あわせた全日制高等学校125校,定時制高等学校22校,通信制8校の合計155校の家庭科教師155名を対象に,高等学校家庭科におけるH.P.の指導に関する意識および実態を質問紙調査により問うた。得られた結果を分析し,H.P.学習指導の困難点及び課題,効果的と考えられる指導上の工夫などを整理し,カリキュラム構想を試みた。調査時期は2017年8月~9月,回収率は51.0%,有効回答率は100%であった。

【結果】
 H.P.学習後の生徒の家庭科に対する関心は,「関心が高まる」と「さらに次の課題へ意欲が高まる」を合わせて56.2%で,生徒の認識の高まりを認めている教師が多く見られた。具体的なH.P.学習活動は1~2時間の事前指導によって意義と方法について指導した後,8割以上の学校が夏休みの課題として実施されていた。夏休みのH.P.学習活動中は質問に来た生徒に関わる程度の指導で済ませる場合が6割であった。これらH.P.の成果は,必履修の科目においても選択科目においても授業での紹介やコンテスト応募などに活かしているという実態も明らかになった。広島県の家庭科におけるH.P.学習は「夏休みの課題で終える」という実態がみられ,H.P課題を提出させることが最終目標となっていると推察できる。
 さらに半数以上の教師が行っている事前指導は,H.P.学習の意義の伝達と方法の説明であった。生活課題を捉えにくくなっている生徒にとって,生活課題を見出すための時間を十分にとり,適切なテーマ及びその追究方法について説明を受け,実施可能な計画まで見通すことが最も必要な事前指導と考えられるが,1~2時間程度しか時間がとれないことから,事前の学習は適切に行われていない状況が伺えた。テーマ設定から実施計画を作成するプロセス全てを生徒自身の主体性と能力に委ねる形となり,夏休み課題として実践される中で,遂行につまずく生徒も多く,効果的な学習とはなり得ていない状況が推察できた。自由記述の分析からもH.P.学習の指導上の困難点は,時間数の少なさを指摘する意見に集約できた。またカリキュラムの問題において「様々な分野の必修内容を扱うためH.P学習に時間を費やすことが難しかった」等の意見から家庭科を内容ベースでしか捕らえられていないことも指摘できる。生徒の置かれている生活状況や生活課題に対する関心の低さを指摘する意見や生活が困窮している家庭に踏み込むことの人権モラル的な配慮が影響していることも明らかとなり,複数の要因が関連し合ってH.P.学習の困難さを感じている教師が多いことが明らかとなった。以上の広島県の実態を踏まえて,年間を通した継続的指導による本質的課題を追究できるカリキュラムを構想した。

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