抄録
日用食器の機能として重要なことは、使い易い・丈夫である・清潔を保ち易い・量産的安価である・整理し易い・意匠が良いなど種々あげられるが、これらの考慮が充分払われているものは非常に少い。そこでここではこれらを綜合したデザインの立場から特に使い易さすなわち、食事動作-食器と手との機能的関係の面で把手を研究の対象に選び、その一環としてティー・カップについて分析を試みた。使い易さは食器の使い方の問題とともに、その形態・寸法・重量などに関連するものであるから、まずその実態を把むために市販製品を調査し、更にそれを試料として把持実験を行い、把持すなわち把手と手との原理的関係を追究した。使い易さの中でも特に持ち易さについて分析する一つのメドは、最根源的な意味で使用感覚の過程にあると考えられるから、把手部分に接触する手の感覚(把持感)を調査し、これを種々の角度から検討した。把持感は把手及びカップの形態・重量並びにこれらのバランスに影響されると同時に、他方使用者の手の寸法・形態及び持ち方にも大きく左右される。又把持動作にはカップに限らず必然的に持ちあげる・おろす動作が介入し、それに関連して机面高・座面高・机上のカップの位置など種々の条件が加わり、決して一義的に決定出来るものではないが、ここではその動作分析のうち特に把持状態について若干の究明を試みた。デザインに際しては、以上のような生理的要因のほか、心理的要因との結付きも不可欠であるが、これは別に綜合的な立場でとりあげたい。