家政学雑誌
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農家の健康・家政管理に関する調査研究 (第3報)
労働時間と余暇の関係
山口 久子武藤 富美子石垣 志津子森川 きく
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1974 年 25 巻 1 号 p. 79-84

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抄録
1) 労働時間と余暇時間の相関度は高く, 労働時間は余暇時間を決定する重要な因子であることが認められた.労働科学研究所の調査結果9) においても, 労働時間に対する余暇時間の弾力性は大きく, 特に男子の場合, 労働時間の増大するにつれて余暇時間は急減し, 共働き主婦においては, 労働時間と家事時間の相関が余暇時間に影響をおよぼす.すなわち余暇時間と家事時間とは強く競合することが指摘されている.本調査地域においてもこれと同様の傾向がみられ, 長時間の過重労働時間は先ず余暇時間を強く圧縮し, A地域主婦の余暇時間は, 家事時間との競合の上で保持されており, B地域主婦の余暇時間ははじめからこれ以上切り下げられないミニマムしか費されておらず, 労働時間の増大は家事労働時間と生理的生活時間の節減によつてのみあがなわれており, 労研調査の女子労働者の余暇時間実態結果10) も同様の傾向が指摘されている.
2) 平日・休日ともに余暇生活の位置づけはなく, わずかな余暇時間も, 疲労回復を主体とする休息的余暇で占められ, 主体的に余暇をたのしむ知的能力や, 生活技術, 生活態度は低く, これらの条件こそ過重労働者に不可欠な必要要素であるという問題認識はきわめて低調である.
3) 家庭内の近代的生活財の普及は主婦の生活を助けているが, かえつて, それにより造出された剰余時間はいっそう生産労働に振り向けられ, 労働強化の悪循環を呈している.このことは別の調査においても同様に指摘されている.
農家においては収入の獲得を生活の最大日的とする労働重視, 人間軽視の生活が何の反省もなく展開されている.今後いくら農家の消費水準が上昇しても, むしろ主婦の生活構造のひずみは増加するものであり, また, このような「年中多忙化」の様相をいっそう強めていく農家の在り方自体のなかにこそ, 健康を阻害する主要因が潜在するものと考えられる.したがつて, 今後はこの点に焦点をおいた家政管理と, 同時に労務管理重視の農業経営とを併行した強力なとりくみが必要である.
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© 社団法人日本家政学会
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